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2014年ホワイトデー『スニオン・ショコラ』4

3月14日――

それは、サガにとって何事もない普通の日だった。
いつも通り早朝に起床し、寝ているカノンと過ごし、太陽が昇ったら執務へ行く。これこそが、共生するために互いが妥協できるギリギリのラインなのだと信じていた。


「ところでサガ、今日は何の日なのか知っているか?」

執務中、唐突にアイオロスから話を振られ、何か大切な村の行事でも忘れていただろうかと慌てて思い出そうとするが、心当たりがなかった。

「何か……あったか?」

怪訝な顔のサガを見て、アイオロスはやっぱり、とでも言いたげに溜息を吐いた。

「2月14日……一か月前のことだが、いつもと違うことはなかったか」

そう言われ、すぐに思い当たったのはその日カノンが帰ってこなかったことだった。心配で朝まで寝ずに時計を見ていたのだから、よく覚えている。

「カノンが……いなかったが」

まさか、カノンに何か極秘の重大な(そして危険な)任務でもあるのだろうか。その質問とカノンが関連しているのかもしれないと思うだけで不安が一気に広がり、掌が汗ばんだのが分かった。

「む、いなかっただと? 何か貰っただろう?」

「貰う? カノンからか?」

まだサガはそれを任務に関係のある重要な書類か何かなのではないかと必死で思い出そうとしている。その様子を見てアイオロスは完全に何かを悟り、質問を変えた。

「たとえば……お菓子とか――チョコレートとか」

それを聞いてサガはさっと顔が青くなり、あ、と小さな声を漏らした。
カノンを待っている間、座っていたソファの目の前の置かれていた、カノンの髪色のようなチョコ菓子。
カノンが持ち込んだものだとは知っていたため最初は手を出さなかったが、無断でいなくなったことへの不安と腹立たしさがないまぜになり、つい食べてしまった。

――あんなに美味しいお菓子は初めてだった。

口に運んだ途端、カノンのものを食べてしまった罪悪感がすぐに消えてなくなった。むしろ、食べて良かったとさえ思えた。
うまく言い表せないが、たとえるならカノンの小宇宙のような味……不器用だが、まっすぐでひたむきな……とにかく、あの珍しい色のせいなのか、幼少期から大人になるまでのカノンの姿が脳裡に浮かんでは消え、抑えていた愛しさがぐっと込み上げた。
執務の時間が来るまで取り乱すことなくカノンをその場で待っていられたのは、あのチョコ菓子のお陰と言っても過言ではなかったのだった。

「直接貰ってはいないが、机の上にあった菓子を食べた。まさかそれが任務に関係のあるものだったとは知らず……」

サガがきまりが悪そうにそう告白すると、アイオロスはおかしそうに笑った。

「サガ、任務とは関係ない。あれはカノンからのプレゼントなんだ」

「……なんだと?」

意味が分からなかった。誰から、誰のだって? プレゼント? カノンが? そもそもなぜアイオロスがそれを知っている?
矢継ぎ早に質問しそうになる口をぐっと結んだ。

「日本にはその日に愛する者にチョコをあげる風習がある……と聞いた。そして、あの日カノンがサガにそれをあげると言っていたのをアイオリアが聞いたんだ」

「な……馬鹿な、それはあり得ぬ。何かの間違いだろう、カノンは私を嫌っている」

「そう言われたのか?」

「い、いや……会話などほとんどないのでな……しかし分かる」

「嫌いな者に菓子をあげる人間などいるものか。もう少し弟をよく見てやることだな。本音と態度が違うのは、お互い様なのだろう?」

アイオロスがそう言うと、サガの顔に血が上った。
カノンが自分にまだ気持ちを向けてくれているというのだろうか。それを聞いてもまだ半信半疑だった。

「幸い、今日はそのお返しをする日だ。サガ、頑張れよ」

肩にぽんとのせられたアイオロスの手は、重くて、そして温かかった。



その日は執務に身が入るはずもなく、何をしているのかよく分からないままサガは日が沈む前に解放された。
あとにもさきにも、こんなにいい加減な仕事をしてしまったことはない、と自分を責めながら、双魚宮に続く階段を下りていた。
お返しとは、どういうものなのだろう、と考えてみる。
たとえば敵から技を喰らったときに、それよりもっと威力のある技をぶつけ、一気に相手の息の根を止めることがお返しの定義のはずだ。

「アフロディーテ」

双魚宮を素通りするのはやめ、あえて庭園に出る。何か、何でもいいから手がかりを見付けたかった。

「サガ、今日は早いね」

薔薇の苗を構っていたアフロディーテが顔を上げ、立ち上がった。

「あぁ、アイオロスに追い出された」

「珍しいことだ。何かあったのか?」

アフロディーテはそう問うが、なぜかことの成り行きを分かっているような顔だとサガは感じた。

「たいしたことではない……ところでカノンはまだ手伝いにきてるのか?」

「う~ん、あれから来てないかな」

「あれから?」

「いや、まあ、しばらくは来ていない。海界の手伝いも始めたというから、忙しいんじゃないか?」

「そうだな……そうだ、何かを貰ったときのお返しは、どういうものを用意するのが一般的なのだ?」

サガはふと思い出したような素振りでその質問をした。

「相手が一番喜ぶものを」

アフロディーテは特に難しく考えることもなく、当然のようにさらりとそう答えた。

「それが分からない場合は?」

「どんなものでもいいんだ。それを考える時間そのものが、贈り物になるんだから」

「ほう……」

随分と難解なことを言われたように思ったが、アフロディーテがあまりにも簡単そうに言うので、それ以上は聞けなくなってしまった。
今の自分は、死ぬまで考えたとしてもカノンが最も喜びそうなものなど分からないだろう。分からないのだから、何も用意できない。だから考える時間などお返しになるわけがない。
サガは打ちのめされたような気持ちで双魚宮をあとにした。



カノンはまだ帰ってこない。良い案は何も思い浮かばなかった。
目の前の机に置いてある小箱の中の飴さえも、カノンは一度たりとも手を付けていない様子だった。もうこんなもので喜ぶ年齢ではないのは自分でも分かっていた。
分かっていても、撤去はしたくない。二人、仲の良かった時代の記憶をどうしてもここに置いていたかったのだ。どんなものでも二人で分けようとした時期があったことを忘れたくはなかった。

「ただいま」

急にカノンが帰宅し、サガははっと意識を心の外へ戻した。

「あ、ああ、おかえり」

少し慌てた返事をしたサガをちらりと流し見て、カノンはまっすぐ自室に向かおうとする。カノンもどこか地に足が付いていないようなそわそわした様子に見えた。

「少し座らないか」

サガは思わずそんな言葉を口にした。
お返しをしなければならないのに、もう今日は何も上げられないのは明白である。しかし、このまま明日を迎えてしまったら1か月前にカノンが初めて示してくれた気持ちが無駄になってしまい、二度とこんな機会は訪れないような気がした。
カノンはサガの提案に、一瞬困ったような表情を浮かべたが、少し硬い動きで隣に座った。

会話を始めるのに、少しの時間を要した。
その間、二人は目の前に淋しそうに存在している飴の小箱に視線を落とすしかなかった。

「1か月前――、お前が帰らなかった日だ……ここに青いチョコ菓子が置いてあったのだが、食べてしまった」

「ああ、あれ……別にいいんだ。お前が食べたらいいと思って置いておいたのだから」

それを聞いて、ようやくカノンが本当にバレンタインという意味であのチョコ菓子をくれたのだと確信できた。ずっと止めていた心の中の歯車を動かすときが来た。

「今日は、あれのお返しをする日だそうだが……お前、何が欲しい?」

「え……」

「何でもいいぞ」

いらないと言われるだけかもしれないとも思ったが、思い切って直接聞いてみた。
しかしカノンは、何がいるとも、いらないとも言わず、ただ飴に視線を落としたまま、悲しそうにさえ見える表情で黙りこくっていた。
カノンが何を感じ、何を思っているのか、見当もつかない。

一方、カノンはその質問にどうしようもなく戸惑っていた。
何が欲しいって、正直に言えばくれるのだろうか。本当に? 何でもだと? そんなわけがない。言ったら最後、ふざけるなと殴り飛ばされるだけだろう。
机の上に置いてある飴は、サガから何かを貰うことをやめた、決意の証のようにカノンには見えた。

「サガは……小さいころから俺にいっぱい色んなものをくれた。だからこれ以上は――」

何もいらない、と言おうとしたが、口が動かず自分でも驚いた。
まるで喉を何かに塞がれたように、そこから先の言葉が出てこない。
兄に嘘を吐くのは容易かったはずなのに、それができないほど、今どうしても、毎日のように見る夢ではなく現実の口付けが欲しかった。

カノンは押し黙り、それからどこか怯えたような顔でサガを見た。
静かに見つめ合う。どんな些細な感情でも、相手の目から少しでも読み取れないものかと、そんな探り合いの時間だった。
深い感情を隠したようなカノンの瞳は、『何もいらない』と訴えてはいない、ということだけはサガにも理解できた。

「今、この部屋にあるのはこれくらいだが……」

サガは黙ってしまったままのカノンにそう言うと、机の上の小箱に手を伸ばした。
カノンは本当に不器用だ。しかし、現実のカノンと正面から向き合うことでようやく彼が望んでいるものが分かったような気がした。
これほど不器用なカノンが、1か月前にどのようにチョコを完成させ、どんな気持ちで今まで過ごしてきたのか、全く考えてもいなかった。
考えもせず、現実のカノンを見ようともせず、ただ夢に閉じ込めていただけだ。
小箱の中でひときわ目立っていた黄色の飴を手に取り、自らの口に一粒放り入れると、その甘酸っぱい味が今までの自分に対する苦々しい心を打ち消していくようだった。
そして、サガはカノンをぐっと抱き寄せた。

「受け取れ、カノン」

半ば強引にカノンの唇を奪うと、自分の口の中にある飴を優しく舌で押した。
カノンの唇には慣れていた。しかし、今までのような無反応な唇ではない。求めるように開かれたその口内に、飴はするりと入っていった。

「ん……っ、む……」

カノンは思い掛けない異物の感触に軽く呻いたが、飴を移し終わったサガが唇を離すと背中に腕を回し引き留めた。
この行為が許容されたと分かったサガは、そのままカノンを押し倒した。
ソファに横たわったカノンは頬を上気させ、息を弾ませている。檸檬の香りがサガの鼻を甘くくすぐった。

「夢みたいだ……」

熱に浮かされたような表情でカノンがそう言ったのを聞き、サガは少し申し訳なさそうに笑った。
もう、夢を見る必要はない。

「カノン」

来年は、直接渡してもらいたいものだ。

「愛してるよ」

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

初めての方へ

◆サガカノ小説サイトです。
◆リンクフリーです。
◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

昔作った動画

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