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2014年双子誕『Re:Birth』前編

――サガは生き返らなかった


Re:Birth


聖域が復活して1か月が経つ。
今日のような酷い雨でも、頂上から流れてくる神の小宇宙はいつも通り、痛いほど苛烈だった。

この小宇宙に導かれ、誰もが――サガを除く全員が――再生したというのに。
アテナの小宇宙はサガに届かないというのだろうか。

選択権などなかった。あるとしたら、自分だって拒否しただろう。
サガだけがいないままの世界で、双子座の黄金聖闘士として神や世界を守る? 虚しくて、笑いさえ漏れそうだった――

双子座の黄金聖衣は重い。



カノンがずぶ濡れで教皇の間に到着したときには、すでにアテナの前にはカノン以外の全ての星座の黄金聖闘士が整列していた。
バケツの水をかぶったような姿なのは、カノンだけ。他に濡れている者などおらず、彼以外は皆、聖闘士の頂点に君臨する黄金聖闘士たる威厳を放ち並んでいる。
普通、黄金聖闘士ともあろう者が雨を防げないはずがなく、その場にいる全員がカノンの様子に目を瞠った。

どうして、『わざわざ』雨に濡れてここにきたのか
どうして、『あえて』時間ギリギリに到着したのか

蠍座のミロはそんな疑問をぶつけたくて仕方ないような表情でカノンを見ていたが、隣で身動きもせず構えているアイオロスの存在の大きさで、かろうじて一歩踏み出すのを抑えることができているようだった。

「遅くなって申し訳ありません」

カノンは低い声でそう言ってアルデバランとデスマスクの間に入った。サガよりややくすんだ青い髪から落ちる水滴が、彼らの黄金の足先にぱたぱたと落ちた。
アルデバランは一度心配そうにカノンを見遣り、アテナへと視線を戻す。デスマスクはやれやれ、とでも言いたげな溜息をこれ見よがしに大きくもらした。

「いいえ、まだ時間にはなっていないのですから気にしないでください。辰巳、カノンにタオルを」

中央に立つアテナが、背後で控えている日本人にそう伝えると、カノンはすぐさま必要ありません、と言い放った。
異様な沈黙が流れる。辰巳の視線以外、誰もアテナの厚意を拒絶したカノンを咎めなかった。新しい双子座の聖闘士への関わり方を掴みかねている。
カノンとは、このような人間なのか? そこにいる全員がこの『サガの弟』を警戒していた。
そして、サガとカノンが背負った星座の宿命を知らなかったことにそれぞれが罪悪感すら覚えるほど、彼ら双子は今でも痛々しかった。

「では……このままお話しします。皆さんに集まってもらったのは、サガのことでお話ししたいことがあったからです」

良い方向の話ではない、ということが誰にでも分かるような、悲しい口調だった。
誰もがサガのことを絶望視していた。だからこそ、カノンがアテナに対しこのような態度を取るのも仕方ないと思うところがあるのかもしれない。

「サガはもう1か月、私の呼びかけに応じません」

アテナがそう言って俯くと、アイオロスが一歩前に出た。

「応じられない場所に魂が行っている、という可能性はないだろうか。彼は異次元を操る聖闘士だ」

「いいえ、いないというより、そこには確かに存在するのに届いていないような感覚があります。ずっと……罪を責め苛む自分自身の声しか聴こえていないのだと思います」

天井から響く雨の音が、さらに深刻さを増した。
重苦しい沈黙を破ったのは、辰巳だった。

「お嬢様はずいぶん疲れている。いつまでも一日中このようにさせておくわけにはいかん」

それは、わざわざ口に出さずともそこにいる全員が分かっている、分かりきっていることだった。カノンさえも、この状況でまだアテナに四六時中苛烈な呼びかけを続けてほしいわけではなかった。
しかしカノンは、申し訳なさそうに俯くアテナを睨み付けていると言っていいほど強く見据えていた。分かっているのに、受け入れられもしない。気持ちの整理がつかなかった。
辰巳は言葉を続ける。

「いつ邪悪が襲うかもしれぬ世の中だ。聖域がこれほど脆い状態のままでは皆を再生させた意味がない」

「それで、サガを見捨てると」

唇から、思わず震える声が漏れた。サガがいない世界への怒りが堰を切って溢れ出し、笑いだしてしまいそうだった。
表面だけでも模範的な黄金聖闘士でありたかったが、隠そうとすればするほどこうしておかしくなるのだ。
その不穏な言葉に、側にいた黄金聖闘士がそれぞれに何か口にしたが、カノンの耳には入らなかった。

「お嬢様を殺害しようとし、聖域をかき回した挙句、自害したような邪悪な人間を救おうとしてやっただけでもありがたいと思え!」

反抗された辰巳がいつもの口調で毒づいたが、その発言でカノンの心にわずかに残された制御が完全に停止した。

「邪悪に傾き、自害したのは私も同じだ!」

語気を荒げ、小宇宙まで溢れさせながらカノンが一歩前に進むと、その勢いに怯んだ辰巳が無意識のうちに一歩下がった。


――なのになぜ、自分だけ生き返ったのか


いっそのことそう叫んで、このうちの誰かが、いや全員でもいい、自分を殺してくれたらとさえ思った。

「カノン、いい加減にしろ」

ミロが見かねてカノンの視線の前に立った。聖戦のとき、カノンに対し免罪符を与えた責任を感じての行動だった。

「これ以上アテナにそのような目を向けるのであれば、このミロが相手になる」

ミロは俄かに小宇宙を燃やし、真紅の爪を構える。これで頭を冷やして退いてくれ、と願うような瞳でカノンを見た。

「ミロ、大丈夫です」

その背後で、アテナのしっとりとした声が響く。

「しかし……」

「良いのです、お戻りなさい。カノン、辰巳が失礼な発言をしたこと、私から謝ります。決して見捨てるつもりでこの話をしたのではありません」

カノンは拳を握りしめ、どこにもぶつけてはいけない気持ちを必死で飲み込んでいた。

「サガを戻すには、私の力だけではなく、他の人間の声が必要だと思いました。これからは夕方に一度だけ呼びかけることにします。そのときあなたたちにも協力していただきたいのです」

カノン以外の全員が一礼し、賛同の意を示す。
己の内の破滅的な衝動を持て余しているカノンは、アテナの話が終わると一番に教皇の間を出ていった。



「待てよ、おい、待てったら!」

再び強い雨に打たれながら階段を下りていると、背後から走ってくる人物に声を掛けられた。
足を止め、振り返る。アテナの目の届かない場所で喧嘩を吹っかけてくるような骨のある黄金聖闘士がいたのか、などと思いながら。

「なんだよ、噛み付きそうな目をしやがって。隣の宮なんだ、仲良くやろうぜ」

デスマスクはカノンの射るような視線を受け流しながら隣に並んで歩き出した。こちらに合わせたのか、彼も雨を避けていない。
予想とは違った蟹座の黄金聖闘士の様子に、カノンはやや落ち着きを取り戻した。
しばらく階段を下りていると、デスマスクが呆れたように呟いた。

「ほんと、ろくな兄弟じゃねえよな、お前ら」

「ああ、特に兄がな」

カノンは半ばやけっぱちでその笑えない嫌味に応じる。しかし、この男の空気感は不思議と不快ではなかった。

「はは、そうかもな。あいつほんとに気難しいんだぜ、弟なら知ってると思うが」

「気難しい、か。俺は15歳までの兄しか知らない。お前たちのほうがあいつのことをよく理解できてるんだろうな」

自嘲するように笑った。こんなことを口にするなんて、本当にどうかしている。

「さあな。あいつの本心が分かるようなやつは少なくとも聖域には一人もいなかっただろう。その結果が、今だ」

そう言われ、カノンは歩きながら押し黙った。
雨は二人の頭に容赦なく降りつける。デスマスクは頭を流れる雨がさすがにうっとおしい様子で、何度も髪をかき上げて後ろに流していた。

「ああ、そうそう。お前……自害したなんて言うなよ、名誉の相打ち、ってやつじゃねえか。しかもあんな化け物みたいに強いやつを生身でさ」

「……同じことだ」

カノンは言い捨てる。決して口にはできないが、求めていた死という事象に都合よく敵を倒したというメリットがついただけのことだった。
そこからは特に話題もなく、ただ二人で並んで歩いた。
巨蟹宮が近付くころ、唐突にデスマスクが口を開く。

「もう諦めんなよ」

「……?」

カノンは怪訝そうにデスマスクを見た。何かを諦めた覚えもなかった。

「兄弟揃って、諦めてんじゃねえよ。顔とそういうところだけは似やがって」

「いったいなにを言ってる、お前は」

顔が熱くなった気がして、急いで顔を背けた。

「風呂でも入ってゆっくり考えろ。じゃあな」

そう言うとデスマスクは自宮の奥に入っていった。


巨蟹宮を出ると、雨の勢いが少し優しくなったような、気がした。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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