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入学式(瞬・星矢)

「星矢ァーーー!」

男のものにしては高い声が、まだ眠りに堕ちている星矢の耳を刺激する。

「もう起きなきゃ! 今日は入学式だよっ」

勢いよく体を揺すられた星矢は、はっとしたように目を開き、棚に置かれた時計を見て飛び起きた。

「うわ……ごめん瞬! 30秒で用意する!!」

パジャマを脱ぎながら洗面台に走って行った星矢をやれやれといった感じで見ていた瞬は、ふと鏡の中の自分に目を留めた。

新しい制服。
少し緊張した顔。

「兄さん、今日から僕も高校生です」

自分の晴姿を見ながら、そう微笑んでみせた。


今日から星矢と瞬は、私立グラード学園聖闘士高等学校に入学する。
二人は中学の頃からの親友だ。
どこまでも優しく温和で、争いを好まない性格の瞬には二学年上の兄がおり、同級生に虐められる度に兄が助けていたが、彼が中学を卒業してしまってからはずっと、それは正義感の強い星矢の役割になっていた。
それでも二人は当時からなぜか気が合い、こうして高校への通学路を一緒に走っている。

「なぁ瞬、高校ってさ、どんな所なんだろうな!」

「どんなって……兄さんがいて……勉強が大変な所?」

「ぷっ、お前高校生になっても兄さん兄さんって過ごすつもりか! 俺はさ、瞬、あれだよ、あれ!」

「あれ……?」

「恋だよ、こ、い! モテモテになって可愛い彼女作ってやるぜ~」

何だかイヤラシイ妄想をして鼻の下が伸びた星矢を横目で見ながら、瞬は

「う、うん……星矢ならできるよ……奇跡を起こせるよ」

と、とりあえず励ますのだった。


二人が息を切らしながら高校に到着すると、生徒は丁度体育館へと移動している所だった。

「ヤバいよ星矢、急がなきゃ!」

瞬がそう言って校門をくぐろうとしたとき、

「待てえー!」

という声が聞こえ、太い剣道の竹刀で遮られた。

「お前ら、初日から遅刻とはいい度胸してるじゃないか」

二人の前に現れたのは、スキンヘッドの大男だった。

「なんだよ、早く通してくれ! こっちは急いでるんだぞ」

星矢は苛々したように言った。

「遅刻したのに通してくれだとぉ!? 残念だったなぁ、遅刻した人間はこの竹刀で百叩きだ!」

「そ、そんな!」瞬が悲鳴をあげた。

「この学校のしきたりを知らずに入学してくるとは、外部入学者だな。名前は。早速お嬢様に報告が必要だな」

「お嬢様にしきたり? そんなもん知らねえや。俺の名は星矢! そっちは瞬だ」

「覚えておくぞ。さあ、外部入学者だからといって容赦はせんぞ、覚悟はいいか?」

「う……うぅ、兄さんに初日からこんな情けない姿を見られたら……」

竹刀を手に笑いながら近付いてくる辰巳に、瞬は思い切って当て身を喰らわせた。
その虫も殺せなさそうな風貌からは思いも寄らない彼の突然の攻撃を完全にみぞおちに喰らい、辰巳はぎゃっと声を上げるとゆっくりと崩れ落ちた。

「瞬! すっげえな、こいつ伸びちまったよ」

星矢が驚くと、瞬はバツが悪そうに笑った。

「さ、行こう! 僕たちは普通科だからきっとあっちだ!」

「もう直接体育館に向かった方が早いな、うまくもぐり込んじまおうぜ!」

二人は目を合わせ、強く頷き合うと、体育館へと走った。


人けの少ない体育館の裏に到着し、瞬を後ろにして壁伝いに入り口を目指す星矢は、角を曲がったとき教師らしき男と思いきりぶつかった。

「イテテ……」

鼻を押さえて見上げる星矢の目に入ったのは、世にも美麗な整った顔と、豊かな青の髪だった。
ネクタイを崩し、シャツのボタンを胸の下まで外したその姿は、教師にしては少し刺激的に感じる格好だ。
星矢は一瞬息を飲む。

「こんなところで何をしている。入学式はそろそろ始まるぞ、早く行かんか。入口は向こうだ」

ちらりと二人を見遣ったその男は、低く張りのある声色でそう言うと、顎で方角を示す。怒ってはいないようだが、不機嫌そうに眉根を寄せていた。
瞬は不思議そうに星矢の背中から男を見上げている。

「あ、あああありがとうございます」

星矢は混乱した様子で瞬の手を引っぱって入口の方に再び走っていった。
瞬は手を引っ張られながらさきほどの教師を振り返る。

「ねえ星矢。あの先生、あんなところで煙草を吸ってたのかな。匂いがした」

「……」前を走る星矢の返事はない。

「ねえってば、聞いてる?」

瞬は立ち止まって星矢の手を引っ張った。振り返った星矢はずいぶん奇妙な表情をしている。

「どうしたの?」

「あの先生……すごいカッコ良かったな……」

「えっ」


それから瞬の慎重な行動でどうにか二人とも入学式の列に混じることができたが、式の最中もずっと星矢は教師の椅子に座っている青い髪の男を見ているだけだった。
瞬も気になってその教師に何度も目を遣ったが、かっちりとスーツを着こなした彼と、さきほどの煙草の匂いがした彼とのイメージがどうにも重ならず、見るたびに首を捻っていた。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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