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兄と同じ場所で(瞬)

入学式の翌日、昼休み――

「ちょっと星矢……ヤバいよ、沙織先輩と言ったらこの学園を経営しているグラード財団の跡取りなんだよ! どうして呼び出されたのかな……」

並んで歩く瞬の瞳が不安そうに星矢を見た。

「瞬は心配性だな! どうせ大した用事じゃないって。あ、もしかして告白なんかされちゃったら俺どうしよっかなー」

星矢は冗談ぽくそう言って笑顔を作ってみせたが、それでも瞬の浮かない表情は変わらなかった。

「そうだ……僕はどんなことが起こっても兄さんのように強くなるって決めたんだ! 見ていて兄さん……」

瞬は胸に手を当てながら自分に言い聞かせる。呼び出された体育館裏に到着するまで、星矢と瞬の会話はなかなか噛み合うことはなかった。

「待っていましたよ、星矢、瞬」

そこにいたのは紫色の長い髪をした女性だった。胸には三年の特進クラスのバッジが光っている。

「何の用事ですか?」

仲良くお話するような雰囲気ではないことを察した星矢は怪訝そうに問いかけた。

「あなたたち、昨日は私の執事にとんでもないことをしてくれたそうじゃない」

一瞬の沈黙のあと、瞬が思い出したように叫んだ。

「あっ! もしかして校門前の……」

「ああ、あの時の大男の雇い主か! お前一体どういう教育してるんだよ!!」

星矢が指を差して毒づくと、沙織はむっとしてきつく睨みつけた。

「何ですって! 私に反抗するとどうなるか分かっているんでしょうね。学園にいられなくすることくらい簡単なことなのよ!」

「うっ……!」

この発言はさすがに二人を怯ませた。

「せ…星矢……せっかく兄さんと一緒の高校に入れたのに一日で退学とか嫌だよ……」

瞬が涙目になって星矢に語りかける。さすがの星矢も声が出なかった。

「さ、沙織先輩……ごめんなさい! 僕……僕、あの人が沙織先輩の執事だなんて知らなくて……」

瞬は沙織の前に座り込み、両手を地面について謝った。沙織はそれを見て満足そうに笑みを浮かべた。

「フッ、よろしいでしょう。では瞬よ、私の馬になりなさい!」

「な、なにぃ……!?」
「馬だって……!?」

予想外の命令に、二人とも衝撃を受け固まった。
そしてどこか嬉しそうに見える沙織は、腰に差していた乗馬用の鞭を手に持った。

「さあ、これで許そうと言っているのです。さあ瞬、早く四つん這いにおなりなさい」

瞬は少しの間躊躇っていたが、やがて観念した様子でお尻を上げた。

「フフ……お前は従順な馬ですね。次は星矢、あなたの番です。この学園を去りたくなければ心の準備をしていなさい」

「くっ……!」

鞭をしならせながら瞬に近付く沙織を、星矢はただ唇を噛んで見ているしかなかった。
その時。

「待て!」

どこからか力強い声が響いた。

「そ、その声はまさか……!」

沙織は動きを止め、声の主に恐怖の色を示す。

「俺の弟に何人たりとも手は出させん……」

その声は、木陰から聞こえていた。

「兄さん!」

瞬が叫ぶと、ゆっくりとその人物は姿を現した。

「兄さん、やっぱり来てくれたんだねっ!」

「瞬……大丈夫か?」

声の主は瞬に歩み寄り、優しく語りかけた。

「やはり……一輝!」

沙織が苛立ちを滲ませて後ずさった。

「この瞬は俺の弟。用があるなら先に俺が相手になろう」

一輝は一転して厳しい口調になり、射抜くような視線を沙織に投げた。

「くっ……覚えてなさい!」

沙織はそう言い捨てると、一目散に走り去っていった。

「兄さん……!」

瞬が涙を流しながら立ち上がり一輝に抱きつくと、一輝もそっと弟を抱きしめた。

「瞬よ、制服似合っているぞ。さあ、もう高校生だから泣くんじゃない」

そう言って優しく頭を撫でた。

「それにしても沙織先輩があんな風にうろたえるなんてあんたは一体……」

星矢の問いに、一輝は静かに目を伏せる。

「フッ、過去の話よ……では瞬、またな」

手短に話を切り上げ、一輝は風のように颯爽と消えていった。


「瞬……お前と兄さん、ほんと似てないな」

星矢はしみじみと瞬に言った。

「僕と違ってカッコいいでしょ。一輝兄さんは一年のときに、当時の三年の中で一番力のあった暗黒四天王と呼ばれた人たちを子分にして相当悪い事をやってたみたい。その人たちが卒業していなくなってからはずっと単独行動だって聞いたよ。でも普段はとっても優しいんだ!」

星矢は沙織があんなにうろたえた理由が理解できたような気がした。

「そ、そっか……はは……じゃ、戻ろう」

「うん!」この高校で初めて兄に会うことができた瞬の声は明るい。

「昼からの授業は数学だ、急ごう瞬! 数学はあの先生だぜ」

「サガ先生だね! 昨日のこと、怒られないといいね」

星矢は教室に戻りながら、何はともあれ命拾いした、と心の中で呟いた。次の授業だけは死んでも遅れたくなかったのだ。そしてすぐに今しがたの出来事は忘れ、うきうきした足取りで教室へと戻っていった。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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