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二度と戻れない場所(カノン)

翌日――

目を覚ますと、見知らぬ部屋のベッドの上だった。
起き上がろうとした途端、激しい頭痛が襲う。

「う……二日酔いか」

酒を飲めばこうなることは分かっていたが、いまさら後悔したところでどうなるものでもない。
とりあえずここがどこなのかを把握するため、頭を押さえながらなんとかベッドを離れた。
そこはビジネスホテルなどではなく、明らかに誰かの部屋のようだった。
最初に思い当たったのは、養護担当のアフロディーテだ。しかし、保健室にあるような繊細な調度品も薔薇の花もない、酷くシンプルで殺風景なこの部屋は、彼の趣味とは全く違うように思えた。

(だとすると……シュラ先生?)

それならアフロディーテであるよりは納得いく。
窓の方へ歩き、一切の光を通さない黒のカーテンを開けてみると、降り注いだ眩しい朝の光がカノンの頭痛をさらに深め、思わずしかめ面になった。
しかし、外の見覚えのある風景を見たカノンは、深刻な頭痛も一気に消し飛ぶほど驚愕した。

「ここは、まさか……!!」

全身の血が沸騰し、一気に汗が噴き出した。
頭の中を巻き戻してどれだけ思い出そうとしても、何も覚えていない。

いったいなぜ。
どうやってここに。

何かの間違いに決まってる、そう信じてドアに向かうと、扉の向こうから声が聞こえ、思わず動きを止めた。
そして、すぐにその声の主が誰なのかを把握したカノンは、ためらいながらも音を立てないようにドアに近付き、そっと耳を当てた。

――こら、イタズラするんじゃない。さあ、おいで

――そう、いい子だ

――ふふ、お前はここをこうされるのが本当に好きだな

その優しい兄の声を聞き、カノンの顔が一気に熱を帯びた。
もはや何かの間違いでは済まされない。ここは紛れもなく、サガの……そして、かつて自分が生まれ育った家だ。
しかし、今はそんなことより重大な問題が起こっている。サガが誰にあんな甘い言葉を吐いているのかだ。
その答えを探そうとした途端にアイオロスの顔が脳裡に浮かぶ。

「くっそ……朝っぱらから何やってんだよ」

見たくはない。見たくはないが、こうなってしまったからには節操のないサガとあいつを殴り飛ばして出て行ってやる。
カノンはむっとした表情で勢いよく扉を開いた。

「……え」

カノンの目の前に飛び込んできたのは、一匹の猫を抱えたサガの姿だった。

「ね……こ?」

カノンが呆気に取られていると、知らない人間が急に部屋に入ってきて驚いた猫がサガの胸から逃げていった。

「起きたのか」

サガはカノンを一瞥すると、近くにある冷蔵庫へと歩いた。
上着を羽織ればすぐにでも出勤できるようないつも通りの服装だった。
勝手に予想した展開とは全く違う、普段通りのサガを見て肩透かしを食らったカノンは、頭を掻きながら無難な会話を探した。

「ここ……家、なんだよな……」

「そうだ」

「父さんと母さんは?」

「仕事でしばらくギリシャに住んでいる」

サガは振り向きもせず淡々とカノンの質問に答えた。
猫の餌と水を用意している様子のサガの足にはグレイの毛並のかわいらしい猫が寄り添い、かぼそい声で鳴いている。

「猫、飼ってるなんて意外だな。名前あるのか」

「名前などない」

「あっ、あの…さ、お、俺はどうしてここに……」

ここに来た経緯を尋ねると、サガはようやくカノンを見据えた。

「覚えていないのか」

「ああ……なにも」

サガは表情を変えることはなかったが、一瞬だけ、苦々しいような、安堵しているような複雑な瞳をしたように見えた。
しかしすぐに再びカノンに背を向けると、今までより一層低い声で

「さっさと出て行け。ここはお前の家ではない」

と冷たく返された。

「分かってるさ……カバンと上着どこだよ」

震えそうな声でとりあえず答えると、サガがソファに置かれたカバンと着替えを持ってカノンに手渡した。

「そろそろ学園に向かわねば遅刻する時間だが、昨日と全く同じ格好で出勤しては良からぬ噂が立つかもしれぬ。シャワーを浴びてこの服に着替えて行くがいい」

差し出されたのは、まだ開封もされていない新しいシャツとネクタイだった。

「でも、これお前の……」

「私は着ていないから安心しろ。どうせサイズは同じだろう」

突然の申し出に戸惑いながらも、目を合わせようともしないサガになすすべもなく、ただそれを受け取るしかなかった。

「先に行く。鍵はオートロックだ」

サガは上着を羽織り、それだけ言い残すと出て行ってしまった。
サガが出掛けてしばらく、渡された服を持ったまま立ちすくんでいたが、猫がカノンの足元に寄って来て不思議そうに見上げたことでようやく意識を戻した。

「なんだよ。飼い主に似てるか?」

座り込んで頭を撫でてやると、猫は嬉しそうに目を細めた。

「いいなお前は……大事にされてて」

あんな風に囁かれて。
あんな風に抱かれて。

「羨ましいよ……」

思わずそう呟いてしまった自分にはっと気付く。

「なんでもない。サガに言うなよ」

猫は顔の赤いカノンをグリーンの瞳で見透かすようにじっと見つめている。

「あんなやつ、どうだっていいよ!」

猫に言ったのか、自分に言い聞かせたのか、とにかくカノンはそう叫ぶと、シャワールームに向かっていった。

その後も、使うもの、目に入った物全てがサガの所有物だと思うだけで気が狂いそうだった。カノンは呪文のように『どうだっていい』と心の中で繰り返し続け、なんとか着替えまでを済ませると早々に部屋を出て行った。
そこはサガと育ったかけがえのない思い出の溢れる家だったが、当時の面影はどこにもなく、あのころとはすべてが違っていた。家を出たあの日から、戻ることのできる場所だとは思ってなかったつもりだ。それでもこうして心が痛むのは、変わらないものがあるのかもしれないという期待が心のどこかに残っていたからなのだろうか。

(どうだっていいよ……)

サガへの気持ちさえ上手に隠せれば、学園にいられる。それだけでいいんだ。
カノンはそう強く念じながら、学園へと向かった。


一限目が終わるころ、カノンはようやく学園に到着した。
職員室に入ると、幸い授業に出ている教師が多く、ほとんど人がいなかった。
やや安堵しながらカノンが机に座り、授業の準備をしていると、アイオロスが近付いて声を掛けた。

「カノン先生、昨日は酷く酔ったみたいだったけど、大丈夫だったかい?」

「ああ、覚えていないんですが……何かご迷惑をお掛けしたでしょうか」

「いや、俺は何も。サガにはお礼を言った方がいいかもな」

「……そうですか」

カノンは思わず視線を逸らした。この人とサガの話はしたくない。
しかし、相手はそんなカノンの気持ちなど全く気付いていないようだった。

「舌の火傷、どう?」

まだ話し掛けてくるアイオロスに少しの苛立ちを覚えるものの、反射的に舌に意識を遣った。
全く痛みはなく、聞かれるまですっかり忘れていた。

「ん……昨日はあんなに痛かったのに……良くなったみたいです」

「そ、良かったね」

アイオロスの笑顔は今日も明るい。
火傷も治り、会話もこのまま終わりそうだと安心したのも束の間、

「あれ、もしかして昨日サガのところで泊まった?」

と聞かれ、全身が凍りついた。意識のはるか遠くで一限目の終了を告げるチャイムが鳴っている。

「いや、なぜ……」

うまくごまかすこともできず、曖昧な言葉を発するほかなかった。

「そのネクタイとシャツ。この前一緒に買い物に行ったときにサガが買ったやつと同じだから。あとサガと同じ匂いがする」

アイオロスの笑顔は相変わらず一点の曇りもない。
それがかえって二人の強固な絆を感じさせ、カノンの心を不快にする。

「偶然だ。あんなやつの服なんて絶対に着ることはない! ……すいません、お先に授業行きます」

カノンはそう言って立ち上がり、職員室のドアを開けた。
その瞬間、偶然外から授業を終えたサガが入ってきた。カノンは力の限りサガを睨み付け、何も言わず立ち去った。
サガの表情はその間一切変わることはなかった。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

初めての方へ

◆サガカノ小説サイトです。
◆リンクフリーです。
◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

昔作った動画

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