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二人の距離2(サガ、カノン)

あれから一週間が経った。
サガとはあの家で会話をして以来、話もしていない。
周囲もそろそろ気付いているのか、サガの話を振られることも日に日になくなっていった。

しかし、アイオロス。彼だけは例外で、ことあるごとにサガの話をしてくるので、カノンはそれを避けるのに毎日精一杯だった。


この日、仕事帰りにクリーニング屋に立ち寄ったカノンはサガから借りていた服を受け取った。
学園で返すのは絶対にまずい。そうすると、もう直接あの家に立ち寄るほかなかった。
やや躊躇いながらも、その足で生まれ育った懐かしい場所へと向かう。

ただ返すだけ。
ただ返すだけ。

余計な話はいっさいするつもりはない。
そう決意しながら呼び鈴を鳴らすと、少し経って扉が開いた。

「あ……」

扉が開くと同時に、あの日この家でシャワーを借りたときの匂いがし、ラフな白いニットを着たサガが出てきた。
仕事から帰ってすぐにシャワーを浴びたのか、青の髪はしっとりと濡れている。
サガの普段着を見るのは初めてだったカノンは、思いがけない彼のオフの姿に赤面し、言葉を失った。

「カノン……? どうした」

学園ではどんなときも無表情を崩さないサガも、思い掛けない来客に驚きを隠せない様子だった。

「あっ……あの、服を返しに来た!」

カノンが不器用にそう言うと、サガはやや冷静さを取り戻し、目を逸らした。

「ああ……そうか。そのままお前の服にしても良かったのだぞ」

その言葉にカノンは咄嗟にむっとした。

「良いわけないだろう、この服、あいつと一緒に買ったんだろう」

「あいつ……?」

サガが少しだけ首を傾げた。

「ご、ごまかしてんじゃねえよ。俺にわざとあてつけようとしているのか? あいつもしつこいんだよ!」

思わずそう叫び、服の入った紙袋をサガの胸に突き出すと、サガは紙袋ではなく、カノンの手首を掴んだ。

「なにを言っているのか分からん、アイオロスのことか? とにかく少し落ち着け」

手首を掴まれただけなのに、カノンがこれまで築き上げてきた偽りの自分を全て掴まれたような気分になり、落ち着くどころかもうなんのためにここに来たのかも分からなくなった。
サガの口からあの男の名前が紡がれただけで、不快感が頂点だ。

「とにかくこんな服を俺に着せるんじゃねえよ!」

サガはそれをさっぱり分からないという表情で聞いていたが、徐々にカノンと同じような表情に変わりはじめた。

「服が気に入らなかったのならその場で言えば良かろう。もう少し立派な服が良かったとでも言いたいのか。そうだろうな。お前は貧しかったこの家を捨て、金持ちの家に取り入るような人間だ」

手首を握るサガの手に力が入った。

「な、なんだと……!」

「俺は知っているぞ。お前は他人の金で海外へ留学し、実の親の仕事の金銭援助までさせたのだ。いったいお前はどうしてそれほどまで向こうの家に大事にされているんだ。そいつになにをした」

サガはカノンを壁に押し付ける。一変したサガの雰囲気と思い詰めた視線に押され、カノンの手から紙袋が落ちた。

「……な、なにもして……ない!」

「では質問を変えよう。なにかされていたんじゃないのか」

サガがなにを聞き出したいのか、分からなかった。確かに跡取り候補として大事にしてもらったが、サガはそういうことを聞きたいのではないような気がした。

「今それは関係ないだろ、そんなことを言うならお前こそなんで医者になってないんだよ……っ」

「それは……」

サガの手の力が一瞬緩まる。そのとき、外の道から足音が聞こえ、反射的に二人は離れた。

「やあ、カノンじゃないか」

仕事帰りのアイオロスが現れ、明るく声を掛けた。
サガはさりげなく中を見られないように紙袋を拾い上げた。

「アイオロス、何の用だ」

「一週間前の飲み会のお金、建て替えてもらってた分を返しにきたんだ。入っていいか?」

「ああ」

二人が話すのを、ただ壁に凭れ聞いていたカノンは、サガがごく当然のようにアイオロスを家に招き入れたのを見て心の中が崩れ落ちていくような気分だった。
サガがシャワーを浴びたのも、もしかしたらこのためなのかと余計な詮索までしてしまう。

「先に入ってるよ」

サガとカノンが話の途中だったのを悟り、アイオロスは先にサガの家に入っていった。
再び二人きりになったが、これ以上はなにか話せるような雰囲気ではなかった。

「カノン、すまないが話はまた今度」

俯いたままのカノンにサガが告げる。
カノンは強い視線で顔を上げ、赤い目でサガを見る。

「別に、もう話すことはない」

そう言い放ったカノンの悲しげな表情を見て、サガはやや動揺を滲ませていた。

「カノン……、その、さっきの言葉は忘れてくれ、どうかしていた」

さっきの話よりも、今サガの部屋にアイオロスがいて、自分が去ったあとで彼らが二人きりになるという事実が耐えられなかった。

「言われなくても……お前のことなんか全部忘れてやるよ」

自ら去ったこの家には、サガがかわいがっている猫がいて、アイオロスがいる。
それはもう、どうしようもないことだ。
事実を受け入れるためには、自分の心を捨てなければならない。
そうでないと、この場で泣いてしまう。

「サガなんか……大嫌いだ」

視線を外し、痛む心で吐き捨てると、カノンはそこから立ち去っていった。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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