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第4章

双児宮に朝日が差す頃、サガは浅く、重い眠りから目を覚ます。
いつもならそのまますぐに起きるところだったが、昨夜殆ど眠れなかったせいか、気だるさでなかなか動けなかった。

独りには慣れたはずだったが――

小さい頃、目を覚ませば必ず隣で寝ていたカノンを思い出し、無意識に首を左に傾けた。

もう十三年も経ったというのに――

今感じるこの孤独はカノンが行方不明になった時よりも遥かに強く、サガの心を沈ませる。
あの頃と違い、手の届く場所で確かにカノンが生きているのに言葉を交わすことすらままならない。
サガは自分の左側にカノンが寝ていた昔を想像し、そっと右手を伸ばす。
幼いカノンの頭を撫でるように出された右手は、何にも触れることなくぽとりと冷えたシーツの上に落ちた。

昨日に引き続き朝食を摂る気になれなかったサガは、法衣に着替え、そのまま出て行こうとリビングに足を踏み入れた。
扉を開けると、失った食欲をくすぐる香りがサガを包む。
サガは不思議そうに顔を上げると、視線の先にフライパンを持ったカノンの後姿が目に入った。

「あ……サガ、おはよう」

扉を開けた音に反応したカノンが、料理をしながら振り返る。
カノンのことを考えすぎたせいで、随分久し振りにその姿を見たような気がするサガは、しばらくカノンを見たまま固まってしまっていた。

「……」

何も答えないサガに、カノンは再び顔を戻し料理を続ける。カノンが後ろを向くその一瞬、表情がきゅっと歪んだのを見たサガは、はっと意識を戻した。

「カノン、おはよう。元気そうで、良かった。行ってきます……」

そう言ってサガはカノンから視線を外し、玄関へ向かおうと歩き出した。カノンが自分を避けているのなら、余り長くここにいない方が良い。
ふと、サガは左手に温かい何かが触れたのを感じる。

「……?」

振り返ると、カノンが何か言いたげにサガの手を掴んでいた。俄かには信じられない光景に、サガの中で時間が止まったようだった。
カノンはすぐに視線を逸らしたが、引き止めるようにただ強くサガの手を握っている。

「き、昨日からお前、何も食べてないだろ……少しでいいから、食っていけよ……」

ようやくカノンが口に出した言葉にサガは危うく別の人格でも出てくるかというほど混乱したが、表向きはただそれを聞いて静かにテーブルに腰掛けたように見えた。
その間にカノンは手際良くテーブルに朝食を用意し、最後にコーヒーをサガの前に出すと、そのままどこかへ行ってしまった。

カノンが作ってくれた温かい料理が、食欲を失っていたサガの体に驚くほどすんなりと入っていく。
用意された食事を全て食べたサガは、じんわりと温かい気持ちで双児宮を後にした。


双児宮からサガの気配が消えた頃、カノンはそっとリビングに入った。
昨日からサガは何やら塞ぎ込み、何も食べなかったのをカノンは知っていた。
仕事で何かあったのか、と心配して朝食を作ったわけだが、まさかその原因が自分にあるとは少しも気が付いていない。

用意した料理を全て食べたと思われるテーブルを見たカノンは、ほっと安心したように微笑んだ。

「良かった……サガ」

そう言って空の皿やコーヒーカップを片付ける。
聖域において二度の反逆を犯し、蘇った今も教皇補佐を続けるサガには自分が想像もつかないほどの苦労や辛さがあるだろう。
カノンはお皿を洗いながら、ぎゅっと手に力を入れた。

(せめて、この宮ではサガが何も思い煩うことのないようにしなければな……)

そう思ったカノンは、双児宮に未だ強く残る聖戦の爪痕をできるだけ急いで修復しようと決心した。崩れた柱などが目に入っては、サガも心の休まる時がないだろう。
あれからデフテロスとは定期的に日記の遣り取りをしている。好きな相手が兄という事実だけはひた隠しているが、それ以外では様々なことを言い合った。
例えばデフテロスは好きな人相手だとただただ見惚れてしまい、陰で見つめることしかできないというような話や、その人の命令は何でも聞いてしまうというような話まで。
男ながら、女のような立場だな、と少し笑ったものだ。
カノンも少しずつだったが自分の話をするようになっていた。互いに共通するのは、『相手に自分の気持ちを伝えることができない』という事だった。
ただ、話を聞く限りでは、デフテロスは相手をずっと見ていたり、その人から命令されたりと、カノンよりは随分と仲が進展しているような気がしていた。

日中、崩れた柱を撤去したりひび割れた壁を修復したりとカノンは忙しく働いた。
額に汗をかきながら、崩れた柱を双児宮の広場に集め、まとめて聖域の外へ持って行く作業を何往復として、最後の柱を片付けた時には既に日が傾いていた。

「ふう、さすがに疲れたな……」

双児宮からアテナ神殿に続く階段の前には一際大きな柱があり、聖戦時にカノンが創り出した幻影と、冥衣を纏ったサガが戦いを繰り広げても崩れずに双児宮を支えていた。
カノンは床に座り、その柱にもたれて体を休めることにした。

心地よい疲労感と、これでサガも元気が出るかもしれないと思うと、自然と晴れやかな気持ちになる。
それでも、頬を掠める風を感じながら瞳を閉じたカノンがやはり思い出してしまうのは、サガとこの場所で戦ったあの日のことだった。

前非を悔いて再び聖闘士になり、ただ死に場所を探していた。サガの人生を引き継ぐ者として正義のために命を燃やすことが、カノンのたった一つの生きる理由となっていた。
それなのに、サガは死人となり再びアテナの命を狙って聖域に攻めてきた。聖闘士として最初にやらなければならなかった任務が、サガの排除だった。

「兄さん……」

カノンは思わず苦しげな声で呟いた。思い出したくないのに、あの時の苦しみがカノンの心を覆いはじめる。
十三年振りに会えたのに、また憎しみ合い、言葉を交わすことなく再びサガは死んでいく。
消えてしまう。
今度こそ、もう二度と会えない。

「……くっ」

カノンは纏わりつく古い記憶を振り切るように、首を振った。

(いつも、いなくなってしまうんだ。兄さんは……)

唇を噛むと、カノンは天を仰いだ。
その時。

「カノン、危ない!」

一瞬何が起こったのか全く分からなかった。
その声を聞いた次の瞬間には、物凄い轟音と衝撃でカノンの視界は真っ暗になり、それと同時にとても懐かしい匂いを感じていた。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

初めての方へ

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◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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