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第6章

カノンが今まさにうつ伏して寝ているその物置部屋の石床に、デフテロスは立っていた。
しかし、同じ場所とはいえ二人が存在する時間軸は異なる。この時代の物置部屋にある本棚やその中の本、その他全てがカノンの時代の物置部屋とは比べ物にならないくらい新しく綺麗である。

デフテロスはカノンからの返事を待っていたが夕方以降一向にその気配がない。
心配そうに眉を顰めると、諦めたように一つ溜息を吐き何度目かに開いた日記を閉じた。

「何かあったのかな……あんな、変な質問したっきりで」

そう呟くと、本棚に日記をしまい物置部屋を出ようと足を踏み出した。
その時、入り口にアスプロスが立っているのを見て驚き、思わずびくりと体が震えた。

「ア、アスプロス……! いつから」

「先程から。俺にも気が付かないくらい、何に夢中になってたんだデフテロスよ」

「な、なんでもない」

こうして必死で何かを隠そうとするデフテロスを、アスプロスはからかう様な視線で見つめている。

「お前は以前、友達が出来て交換日記を始めたと言っていたな。さっき本棚にしまったのがのがそれか? 見せてみろ」

そう言われ、デフテロスが俄かに頬を赤くした。

「だ、ダメだ、それだけは……」

デフテロスが首を振ると、微笑を浮かべていたアスプロスの表情がさっと豹変し、瞳に力が篭る。

「ほう、兄にも見せられぬ物というのだな。理解した。そうだな、お前が俺を信用できないのは当然だ」

低い声でそう言い放つと、返事を待たずデフテロスに背を向ける。勿論この兄は、そこからのデフテロスの行動を読んでわざとこのような態度を取る。
デフテロス自身も、そんな兄の計算を感じながらも動かずにはいられない。本棚の日記を取り出し、立ち去るアスプロスを早足で追い掛けた。

「ま、待てよアスプロス」

そう言って兄の腕を掴むと、その胸に『おとうと日記』を押し付けた。

「別に信用していないわけではない。ただ相手が未来の双子座の弟だというだけだ」

デフテロスがそう言うと、アスプロスは俄かに驚いた顔を見せた。

「まさか、カノン……か?」

そのアスプロスの言葉に今度はデフテロスが同じように驚く。

「カノンを知ってるのか!? 何故だ」

成程、とアスプロスはにやりと笑った。自分が子供の頃から交換日記をしていたあのサガの弟と、デフテロスも同じように交換日記をしていたのだ。
この日記を読めば、常に悩んでいるあのサガの役に立てるかも知れないと考える。

「では俺は部屋に戻りこの日記を読むことにしよう。お前はその間、風呂でも入ってくるがいい」

命令とも取れるような口調でそう言うと、アスプロスは寝室へと入っていった。
それを心配そうな表情で見つめていたデフテロスだったが、やがて仕方なく浴室へと向かっていった。


アスプロスは渡された日記に一通り目を通すと、顎に手を遣り暫し考え込んだ。

「何というかわいらしい日記よ……」

兄同士で行っている交換日記とはまるで違う。誰が好きだの、キスがどうだの、まるで若い女子ではないか。
少し呆れながらも、初めに顔を赤くして日記を読むのを拒否したデフテロスの恥じらいを思い出しふふっと微笑んだ。

しかし、心の中の波がじわじわと荒れていくような感覚を覚えた。
デフテロスには、カノンと同じようにどうやら好きな人間がいるらしい。そして、思いが伝わらないことに悩んでいたりするのだ。
弟は自分のものだと思っていたし、今でもそう思っている。しかし、そうではなくなる可能性もあるということだ。

何しろ弟を利用しようと企んだ挙句、反抗されて殺された身だ。
長く死んでいる間に弟は双子座の聖闘士として光の道を歩み、その時に関わり合った人間も多かっただろう。
日記を持つアスプロスの手が震えた。
手放すつもりなど毛頭ない。鎖に繋いでも弟は誰にも渡さない。

そう考えていると、ふと寝室の扉がノックされた。どうやらデフテロスが風呂を終えて出てきたようだ。

「入れ」

そう言うと、少し気まずそうにデフテロスが入ってきた。急いで来たのだろう、長い髪はまだ水が滴り、熱を持った頬がほんのりとピンク色に染まっている。
そんな弟の放つ色香にアスプロスはつい見惚れる。

「……」

デフテロスは何も言わない。ただ、アスプロスがあれを読んでどういう反応を示すのか窺っていた。

「デフテロス、お前の好きな奴というのは誰だ」

そう問うと、デフテロスは視線を落とす場所を探すように目を逸らす。

「そいつとキスがしたいと、お前はそう思っているのだな」

さすがにこの駆け引きにデフテロスがどう出るのかは分からなかった。ただ、答えが何であれ、力で屈服させてでも己のものにしようとする感情が隆起し、心臓が高鳴っていた。

「き、聞くな……」

なおも拒絶したデフテロスにアスプロスは思わず立ち上がった。
その勢いに警戒したデフテロスの体に僅かに力が入る。
しかしアスプロスはふっと微笑んで、優しくデフテロスの熱い頬に触れた。

「お前は昔から、仮面を付けていたからまだそういう経験がないのだったな。それは兄である俺の責任だ。練習させてやるから俺にキスしてこい」

「アス……、な、何を……」

デフテロスは驚いて目を見開いた。その目にアスプロスの端正な唇が映り、デフテロスの頬にさらに濃い紅みが差した。

「どうした、早くしろ」

吸い込まれるようにアスプロスの唇を見つめるデフテロスを急かすようにそう言うと、デフテロスははっとしてアスプロスから離れた。

「……ッ、兄さん、そんな風にするのは……嫌だ」

「では、誰ならいいと言うのだ、言ってみろ」

鷹揚に振舞い続けるアスプロスに対し、デフテロスは酷く余裕のない表情で息を弾ませていた。

「俺は……ずっと、兄さんを……」

デフテロスの声が緊張で震える。決意したように、強い眼差しをアスプロスに向ける。

「兄さんが……好きだ。だから、練習なんか、できない」

アスプロスはその突然の告白に表情が固まる。デフテロスの視線はいつでもアスプロスを身動きできなくなるほど強く縛る力を持っていた。
その瞳に囚われながらも、心の中では温かい感情がじわりと広がっていくのが分かった。

「ッフ、それなら何も問題ないではないか。練習ではない、本番だ。来いデフテロス」

アスプロスは両腕を広げ微笑んでみせた。

「え、でも……」

「どうした、その言葉、嘘でないのならしてみろ」

そう言って戸惑うデフテロスを煽る。自らの余裕のなさを隠すために、相手を追い込んでいく。
デフテロスは自信がなさそうにゆっくりとアスプロスに歩み寄り、そっと両肩を掴んだ。
唇が触れそうな距離で再びアスプロスの唇を見ると、デフテロスの吐息が僅かに震えた。

そこからは、どちらからともなく距離が近付き、ついに二人は唇を重ねた。
しばらく二人は初めて経験する互いの唇の感触を味わっていたが、やがて衝動のままにアスプロスがデフテロスの唇に舌を入れた。

「……んっ……」

深いキスを知らないデフテロスが突然の侵入に驚き、短い声を上げる。刺激に耐えようと、アスプロスの服を握る手に力が入る。

「舌を入れてこい、デフ……」

口付けの合間にアスプロスにそう言われ、それまで自らの口内で絡め合っていた舌をアスプロスの口内へと差し出す。

「ん……っふ……っ」

キスの快感に溶けそうになりながら、デフテロスは自分が今までに出したことのないような声が漏れているのを感じ、恥ずかしさで体中を熱が駆け巡った。

「上出来だ……」

アスプロスはそう言うと、デフテロスの髪を撫でるように梳いて軽く掴むと更に強い口付けを与えた。
口付けが激しくなればなるほど、デフテロスは押し流されて体の力が入らなくなっていく。
足の力ががくんと抜けると、アスプロスはデフテロスの体を支え、そのまま隣にあったベッドへと押し倒した。

「お前の負けだな、デフテロス……」

そう言って不敵な笑みを浮かべると、唇が触れそうな距離を保ったままデフテロスの服の中に手を入れた。

「に、兄さん何を……」

驚いて体を固くするデフテロスの耳元に唇を持っていくと、その耳朶にまで強い熱を帯びているのを感じた。

「今夜、お前は完全に俺のものになるのだ……」

「……ッ、はぁっ……」

アスプロスの手の動きに悶えるデフテロスの初々しい反応に、溢れる衝動が抑えきれない。
初めての行為に不安で一杯になりながらも、それを懸命に受け入れようとしている弟を上から見下ろしながらアスプロスは微笑んだ。
軽く口付けを落としながら、破るように服を脱がせると、自らも着衣を脱ぐ。
デフテロスが少し辛そうに視線を逸らした。お互いの裸を曝すのは肌の色の違いが際立ちデフテロスの劣等感を煽る。

「み、見るな……」

搾り出すようにそう告げるデフテロスを抱きしめ、アスプロスは再度深い口付けを与えた。

「お前が俺と何もかも同じであったなら……俺はこんなにもお前を愛しいなどと思わなかっただろう」

唇を離しアスプロスが言ったその言葉に、デフテロスは目を見開いた。

「アス……」

「お前が、欲しい……デフテロス。欲しいんだ……」

その時見たアスプロスの顔はいつもの自信に溢れたものとは程遠い、まるで怯えた子供が神に祈るような儚さを滲ませる。
デフテロスは昔から、兄にそういった部分があるのを知っていた。

知っていた。

デフテロスはふっと微笑んで、アスプロスを包み込むように両腕を開く。
影という存在に甘んじることで兄を救えると思っていた昔の自分はもういない。

「俺は、最初から兄さんだけのものだ……」

そうしてきつくアスプロスを抱きしめた。自分の存在だけで兄を救える喜びを感じながら。

「兄さんになら、何をされても……いい」

本音だった。自分だけを見てくれるのであれば、あの時のように殺されることだって喜んで受け入れる。
デフテロスは今にも泣きそうな兄の瞳を見つめた。きっと、自分も同じ瞳をしていると感じながら。

「好きに……すればいい」

最後にそう搾り出すように囁き、デフテロスは覚えたばかりの口付けをアスプロスに与えた。
アスプロスは何も言わないまま、噛み付くようにデフテロスの唇を貪ると、再びデフテロスの余裕を奪っていった。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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