記事一覧

2. リュカイニオン

カノンは、こっそりとサガの後を追った。
子供の頃のように外へ出るのを誰かに禁止されているわけではない。
サガに駄目だと言われればあたかも禁じられたように捉えてしまうのは、小さい頃に沁み付いた忌まわしい癖である。
まるで聖域に飼いならされた家畜だ、とカノンは階段を昇りながら唇を噛んだ。


カノンによく似ている――

サガは最初そう思った。
しかし妹との余りにも突然の再会は、サガにとって嬉しいと思える事ではなかった。

「何故今頃になってここへ」

やや険しい面持ちでサガは問う。

「母が先日亡くなって、遺品を整理していたら昔の日記に兄さん達の名前とこの場所が書いてあって……その時初めて知りました。そうしたらどうしても会いたくなって」

「亡くなった……だと?」

サガの心の中の、幻の母。もどかしい懐かしさがサガの胸を苦しくさせた。
やはり、カノンは連れて来なくて正解だった。そう思った。

「サガ、確かにこの人は俺があの時に見たカノンによく似ているが……この話は確かなのか?」

やや腑に落ちない表情でアイオロスがサガを見る。

「名前を何という」

サガは努めて無表情を装いながら、妹と名乗る人物に名前を訊ねた。

「リュカイニオンです。リュカと呼んで下さいませ、兄さん」

堂々とした笑顔で答える女性に、サガは目を見開いた。

「……ロス、間違いない。妹の名だ」

「そうか……」

アイオロスは難しい表情をしている。

「兄さん、お願いします。私にはもう身内は他にいません。一緒に暮らして下さい。何でもします、どうか……!」

リュカイニオンがサガの足元に跪き、涙を流した。
サガは困ったようにアイオロスを見る。

「ロス……」

「たとえ肉親でも聖域でずっと一緒に暮らすという訳にはいかない。俺が彼女の住む場所と仕事を用意するから、その間は取り敢えず双児宮に」

アイオロスの提案に、リュカイニオンが安心したようにありがとうございます、とアイオロスに頭を下げた。

「では、もう遅いから二人はもう双児宮へ。サガ、カノンは?」

「ああ……あれには私から話しておく」

サガの表情に少し違和感を抱いたアイオロスは眉を顰めた。

「何かあれば力になるから」

アイオロスが言うと、サガは頷きながら少し微笑んだ。



教皇の間を出たサガとリュカイニオンは、ちょうど下から階段を上って来たカノンに出会った。
息を切らしながら佇むカノンは、二人の姿をただ不思議そうな顔で見つめた。

「サガ……その人は」

二人の距離が、単なる知り合いにしてはとても近い。
そして、何より気になるのはその風貌。今の自分の姿に似ている。酷く似ている。
カノンの心に黒い危機感が生まれた瞬間だった。

「カノン、実は」

サガが説明しようとした瞬間、隣にいたリュカイニオンが嬉しそうな声を上げた。

「カノンですって!? 兄さん、この方は私の姉さんですね! 私、どちらも男の人だと思っていました。一度に兄さんと姉さんが出来るなんて、嬉しい! 姉さん、初めまして、リュカイニオンと申します」

カノンは訳が分からないという表情でサガを見た。

「どういう事だ、サガ」

「後で詳しく話すが、私達の妹だ。しばらく双児宮で共に暮らす事になる」

「妹……!?」

カノンは信じられない思いでサガを睨むように見た。ここまで生きて来て突然現れた女性を妹と言うサガを全く理解出来なかった。

「正気か、サガ。それともどこまでもお人好しなのか」

「カノン、確かな話なのだ。取り敢えず、詳しくは宮に戻ってからだ。ここでは体が冷える」

「……もういい、分かった。俺は先に戻る」

カノンは諦めた様子でそう言うと、二人に背を向け来た道を引き返して行った。
階段を下りながら、何故だか泣きたい程に自分を惨めに感じた。
その気持ちから逃げるように、全速力で走り出す。貧弱な足を何度も縺れさせながら、それでも止まる事はしなかった。


双児宮に着くや否や、カノンは寝室に入り、勢い良く扉を閉めると鍵を掛けた。
二人が到着してから、何度もノックの音が聞こえたが、その夜カノンが扉を開ける事はなかった。

その日までサガと寝ていたベッドで独り横になりながら、カノンはなかなか寝付けずにいた。
いくら考えても妹がいたという事実を飲み込む事が出来ない。
それに、サガが何故ごく自然にそれを受け容れているのかがもっと分からなかった。
小宇宙が無くなっているとはいえ、血を分けた真実の妹なのであれば自分にだって何となく分かるはずだ。
しかし、自分に酷似したあの姿はどこか人形のようで、空虚な違和感を覚えた。

サガはそうは思わなかったのか……

カノンはある思いに囚われ、苦しげに呻いた。
心を侵食していく黒い危機感。


女の体になってから、何度もサガに抱かれた。
何度も何度も……この体がサガを忘れられなくなってしまうまで。


――私達に妹がいたのなら、ちょうど今のお前のような容貌だろうか


サガは、そう言ったのだ。
妹が欲しかったのか? いつか元の体に戻ってしまう弟などではなく、女の体を持った本当の妹が。


サガはもう俺を必要としないのかもしれない。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

初めての方へ

◆サガカノ小説サイトです。
◆リンクフリーです。
◆R18部分は簡単なパス制です。

WEB拍手

←「いいね」「読んだよ」「生きろ」などの気持ちを気軽に押してください。
☆コメントの返信(8/8)

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

当サイトのQRコード

QR

書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

昔作った動画

訪問ありがとうございます