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5. 人魚

痛みでなかなか寝付けなかったカノンは夜が明ける頃にようやく眠り、太陽が西に傾きかけた頃に目を覚ました。
昨夜の痛みはもう感じない。全て夢だったのだろうか。

この時間はもう誰もいないだろうと思いながら部屋を出たカノンは、リビングにいるはずのない人物がいるのに驚く。
ソファから立ち上がったのは、法衣を纏ったサガだった。

「カノン……大丈夫か」

「あ、ああ……サガ、仕事は」

「一度行ったが先程戻ってきた……その、心配で」

「心配……?」

もしかして俺が起きるのを待っていてくれたのか、そう思っただけで嬉しくてきゅっと胸が痛くなる。
苦しげな表情をしたカノンを見て、サガは繊細な眉根を寄せた。

「カノン、気になっている事があるのだが」

「何だ」

「リュカイニオンが昼間にどうしているかを知らないか?」

それを聞いて、カノンの心は今までの甘い苦しみとは違う痛みに染まった。
サガが心配していたのは、俺ではなくリュカイニオンなのだ。一瞬にして、呼吸を忘れる程に絶望が駆け巡った。

――サガの何を信じろと言うんだ

自分を通してリュカイニオンを見ているサガに、カノンは酷く哀しい瞳を向けた。
もう、自分の想いは兄へ届かない。そして、これ以上二人と一緒にはいられない。

「サガ、も……俺、出て行く」

カノンの高い声が震える。

「カノン、何を突然……駄目だ、ここにい……」

「もう嫌なんだ! お前といるの、もう嫌だ!!」

カノンはサガの言葉を遮って叫ぶ。

「リュカイニオンの事は俺は何も知らない。そんなに気になるなら、お前の側にずっと置いておけばいいだろ!」

そう言い捨てると、サガの顔を一度も見る事無く双児宮を出て行った。
何も答えなかったサガがその時どんな顔をしていたのか、カノンは知りたくもなかった。



スニオン岬まで来たカノンは、遥か昔サガに閉じ込められた岩牢を崖上から眺めた。
沖から強く吹き付ける風も、砕け散る潮の鋭さも、この海特有の匂いも今は懐かしささえ覚える。
全て失ったカノンにとっては、嘗て二人を別った岩牢でさえもサガと自分を繋ぐかけがえのないものに感じた。

その頃、カノンを探していたマーメイドのテティスは、崖上に立つカノンを少し離れた場所で眺めていた。
本来は人間が立ち寄る事さえない、一歩足を踏み間違えば海に落ちてしまうような大変危険な場所である。
テティスはあの場所に立つ人物は彼くらいである事を昔から知っていた。

(しかし、あの華奢なお姿は一体どうした事だろう……まるで女性のような)

テティスが首を傾げながら眺めていると、カノンの背後に大きな黒蛇が近付いているのを見た。
その様子に不吉な予感を覚え、テティスは走り出した。


「海龍様――!」

カノンはふと聞き慣れた声がした気がして、その声の方向を振り向いた。しかし先に目に入ったのは、今にも襲い掛からんとする大きな黒い蛇だった。
昨夜幾多の黒蛇に体を蹂躙された記憶が瞬時に甦り、カノンの体に戦慄が走った。
牙を剥きながら襲い掛かる蛇に足元を掬われ、カノンはバランスを崩し倒れた。
カノンの体に全体重を掛け動きを封じると、蛇はカノンの体に全身を巻き付けながら崖下へと引き摺っていく。

「デストラップコーラル!」

テティスの放った技が黒い蛇に絡み付き、珊瑚のように広がりながら蛇の動きを封じる。力を封じられた蛇はカノンからじりじりと剥がれ始めた。
やがて完全に珊瑚に覆われた蛇は、力を失ったように海へ落ちて行った。

体の半分が崖から落ちかけているカノンをテティスの手がしっかりと掴む。

「……っ、テティス!」

「お久し振りです、海龍様」

驚くカノンに、テティスはにっこりと微笑んだ。


「ありがとう、テティス。まさかお前に助けられるなんてな……しかしよく分かったな、こんな姿なのに」

テティスはカノンの体をもの珍しそうに見ている。

「本当ですよ。もうずっとお捜ししておりましたが、まさかこの様なお体になってらっしゃるとは知りませんでした」

「全く情けない事だが小宇宙も失ってしまっている。一体ポセイドンは何をやってるんだ」

カノンは不機嫌そうにテティスに愚痴を零した。

「そのポセイドン様に言われて来たのですよ。ところで先程のあの蛇……」

「何か感じたのか、テティス?」

テティスはカノンを見ながら、力強く頷いた。

「真っ黒な小宇宙が見えました。海龍様、何者かに狙われているのですか?」

「……」

カノンはそう言われて考え込んだ。しかし、いくら考えても心当たりはない。

「分からないんだ……何も」

少し不安そうに呟いたカノンを見て、テティスは明るく振る舞った。

「大丈夫ですよ! 私が来たからには安心して下さい。もう昔みたいに守られてばかりではありませんから」

「テティス……」

カノンが海界で過ごし始めた頃、テティスはまだ幼かった事を思い出す。
あの頃は自分も若く不安定だった。そんな懐かしさでカノンはふっと微笑んだ。

「お前には、ずっと見苦しい所ばかり見せてるな。すまない」

テティスは昔より遥かに大人びた表情で、首を振った。

「海龍様が今この様な状態なのも、きっと何か意味があるのです。海にいらしたのに大きな意味があったように……」

「海か……戻りたいな」

サガの側にいられないのであれば、地上で生きる意味さえない。そんな気持ちでカノンは呟いた。

「私もポセイドン様も、いつも見守っています」

テティスはそう言って、カノンの両手を取った。
あんなに幼かった少女が、いつからだろう、家族のように信頼出来る存在に変わったのは。
そしてこんな体になった今でも変わらずに、偽りのない優しい心を示してくれているように思えた。

「ありがとう」

両手を握られたままのカノンが少し照れたようにそう言うと、テティスは嬉しそうな顔で、そっとカノンを抱きしめた。

「テティス。一応俺は男なんだぞ」

「うふふ、今は二人とも女性なのだから、大目に見て下さい。私は今までもこれからも、海龍様の妹のような存在でありたいと思っています」

「妹……」

テティスはまるで本当の妹のようだ、とカノンは思った。
この時初めて、もしかしたらリュカイニオンは自分の妹ではないのかもしれない、という考えが過る。ただの都合の良い解釈だったとしても。

しかし今は、テティスの温もりと冷えた頬にふわりとかかる金色の柔らかい髪の毛がただ心地良かった。



スニオン岬から見える夕陽が水平線に沈む頃、カノンはもう一度サガに会う決意を固めた。
双子の絆を、そして妹との繋がりを確かめる為に。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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