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7. 絶望の果て

「……っ、ここは」

一瞬体がふわりと浮き上がったような感覚の後、急に不安定な着地を強いられたカノンは思わず地面に手を付いた。
掌に感じるのは海水を帯びた細かい砂だと分かった瞬間、カノンの手に波が打ち寄せた。
周囲を見渡すと、暗がりながら見覚えのある海岸だった。スニオン岬にほど近い砂浜である。

異常な事態だった。自分は確かに双児宮にいたのだ。それが一瞬でこの場所まで飛ばされた。
しかし、今のカノンにとってはそれはあまり重要な事ではないように思えた。先程のあの光景に比べれば。

――兄に、また捨てられたのか

カノンはスニオン岬の方角を見ながらそう思った。
立ち上がる気力も湧かない。立ち上がって、一体どこへ歩き出せばいい?
カノンは砂を握りしめ、海を睨んだ。

「ポセイドン!」

カノンは闇に覆われた海へ向かって手の中の砂を投げ、叫んだ。

「何してるんだ……! 俺を今すぐ元に戻せ!!」

海に向かって這い、歯向かう波を時折力一杯叩きながら、カノンは叫び続けた。
深みは徐々に増し、カノンの細い手足を押し流そうとする波がより強くなった。


戻らなければ、海に還るまでだ――


カノンは半ば自棄になりながら沖へ向かって進んでいく。
四つん這いの腕や腿が海水にほぼ浸かった頃、ふと、後ろから笑い声が聞こえた。

「ふふふ、っくっく……」

振り向いたカノンの視界にいたのは、嗤いながらカノンを見下ろすリュカイニオンだった。

「いつの間に……」

カノンは怪訝な表情を浮かべた。

「どんな気持ち?」

リュカイニオンの唐突な問いにカノンの表情が更に険しくなる。
双児宮で見ていたリュカイニオンとは別人のような、冷たい微笑みを浮かべている。

「お前……」

「ふふふ、いい気味。そうやって孤独と絶望の中で死んでいけばいい」

「な…んだと……」

「覚えているか? 私を、そして私にした事を」

その言葉をつい最近も聞いた気がする。そう思ったカノンは記憶を辿った。
あの時の、おぞましい夢。

「お前はまさか、あの夜の蛇か……!」

リュカイニオンの気味の悪い笑みが更に深くなった。

「その通り。あと少しでお前のはらわたを喰らってやったのに、あの時は兄さんが邪魔したわ」

「サガが……」

あの夜、助けてくれたサガを拒絶してしまった事を思い出し、カノンの心が痛んだ。

「体中傷ものにして呪いをかけ、兄さんに二度と触れない体にしたかったのに。でもいいわ。兄さんはもう私のものだから」

勝ち誇ったようにそう言われ、双児宮で見た二人の光景が再びカノンの脳裏に浮かぶ。

「話が本当なら、サガは馬鹿だな。お前なんかに騙されて」

カノンは自嘲気味に笑う。何より悔しいのは、こんな醜悪な蛇にあっさりと兄を取られた現実だった。
リュカイニオンがそっと膝をつき、カノンの肩に触れた。

「違うわ。賢い兄さんは敢えて私を選んだのよ」

その目の前で静かに微笑むリュカイニオンの顔は、まさしく蛇のそれだった。

「あの日から……お前を亡き者にし、あの人を独り占めする事だけを望んできた。お前の命を報酬に、冥界の悪魔と契約したの」

「やはりお前は妹などではないのだな。俺が何をしたのか知らないが、兄だけはお前の思い通りにはさせん!」

カノンは戦う決意をし、立ち上がろうとした。しかし、リュカイニオンの手に両肩を強く抑えられ、身動きすら出来なかった。

「……っ」

肩に置かれたリュカイニオンの手が更に強く、重くなっていく。

「忘れたのか、お前は小宇宙も失った、ただの無力な女よ。ふふふ……」

カノンの膝が重みで砂に埋まっていく。

「こんなに浅い場所でも、今のお前など問題なく殺せる。契約で得た魔力など使わなくてもな」

そう言って、カノンの肩に置いた手を首筋へ回すと、大きく瞳を見開き、力ずくでカノンを仰向けに倒した。
その衝撃で水飛沫が舞う。

「うっ……! っぐ…げほっ」

首を絞められた事で息も出来ず、更に寄せる波がカノンの顔を覆った。
カノンは必死で足掻いた。

「残念ね、誰も助けに来ないわ。お前の居場所は誰にも分かるはずはないのだから」

水の中で苦しむカノンにその言葉は聞こえていなかった。薄れゆく意識の中で、ただサガを信じた。
その時、俄かに雷鳴が轟き、真っ暗な空がフラッシュを焚いたように一瞬強く光った。
ほぼ同時に、空が裂けたようなばりばりという轟音と共に、巨大な雷がリュカイニオンの頭上に落ちた。

「ぎゃあああああーーーー!!」

絶叫しながら、黒煙を噴くほどの熱にリュカイニオンはのたうち回る。押さえている顔は煤け、衝撃で裂けた顔の半分から蛇そのものが覗いていた。
一方、水の中に漂うカノンは既に気を失いかけていた。押さえられていた体が自由になった事はぼんやりと理解できたが、起き上がる力はもうなかった。


――これで、サガの所に……帰れるのか、な


サガの顔を思い続けながら、カノンは全身の力を、命を、海に委ねた。
その時、体がふわりと浮いたような気がしたカノンは、一瞬これが『死』かと感じた。
しかし、直後に感じた頬の刺激と誰かの声が、カノンを現実に引き戻す。
痛みと息苦しさで自分がどうなっているかも分からない。しかし、体中が感じる熱だけは、分からないはずがなかった。


小さい頃から変わらない。非力な自分を何度も救い、癒してくれた……あの温かい、兄さんの――小宇宙だ



岬の落雷により、サガはカノンの居場所を把握する事が出来た。
すぐに駆け付けると、目に入ったのは黒い『何か』が悶え苦しむ様子とカノンが仰向けのまま波に流されようとしている光景だった。
真っ先にカノンを抱き上げ、軽く頬を叩く。僅かに反応があった事で、サガの険しい表情がやや緩んだ。

「カノン、良かった……」

サガは小宇宙を燃やし、カノンの冷え切った体を包む。

「海龍様!」

その時、同じく雷を見て気が付いたと思われる金髪の女性がどこからか走ってきた。

「お前、その小宇宙は海闘士か」

サガがそう言うと、その女性――テティスははい、と頷いた。

「初めまして、双子座のサガ様。テティスと申します。海龍様は……」

カノンの無事を確認すると、テティスはサガの後方でゆらりと蠢いたリュカイニオンに目を向ける。その視線を感じ、サガも振り返った。

「先程の雷、ポセイドン様ですわ。危険がここにある事を知らせて下さったんです」

「……話は後だ。テティス、カノンを頼む」

そう言うとサガは波の届かない砂浜に、そっとカノンを横たえた。

「分かりました」

テティスがそう言ってカノンの側で膝をつくと、サガはリュカイニオンの方へ向き直った。


(あれが海龍様の双子のお兄様……聖戦で双子座の聖衣を纏った海龍様も、きっとあんな風に堂々と輝いていたのでしょうね)

サガの大きな後ろ姿にカノンを重ね合わせながら、テティスは看病を続けた。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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