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8. 親愛

「さて……」

黄金の聖衣を纏うサガは、顔を覆いながらふらりと立ち上がったリュカイニオンを見遣った。

「綺麗な顔が台無しだな、もっとも、カノンを真似ただけの偽りの美しさだが」

「に、兄さん……」

半分は蛇の顔を晒しながらも、残る人間の瞳が縋るような目でサガを見る。
しかし、サガはそれを冷たく突き放す。

「フ……蛇の妹など持った覚えはない。初めから、私の事を兄と呼んでいいのはカノンだけだ」

「最初から知ってて……くっ……あいつさえ、あいつさえ殺せれば」

雷に打たれボロボロになっても尚、リュカイニオンは砂浜で横たわっているカノンの方を睨み、命を奪おうと動いた。
サガは目を伏せ片手でそれを遮ると、険しい視線でリュカイニオンを見た。
リュカイニオンがこれまで一度も見た事のない、まるで別人のような兄の威圧的な表情だった。

「……ついでに言っておくが、カノンを傷付けていい者がいるとしたらそれは兄である私だけだ。貴様のような汚い蛇は、これ以上カノンに触れる事すら私が許さない」

「何故そこまでカノンを……昔からあいつは兄さんにとって迷惑な存在でしかなかったはず!」

その言葉を聞いてサガの眉がぴくりと動いた。

「そう言えば聞き損ねていたな、お前が何故カノンに恨みを持っているのか、何故私達の過去を知っているのか。しかし、それももうどうでもいい。お前はここで私に殺されるのだから」

サガの小宇宙が燃える。それは瀕死のリュカイニオンにとってすぐに逃げ出したくなる程の恐怖だった。

「や、やめて兄さん……! 兄さんはそんな事をする人じゃない、優しい人間だった……!」

「勘違いをしているようだな、私はアテナの御命を二度も狙った程の業に塗れた人間だ。今更蛇一匹殺すのに何の躊躇いもない。それに、あの時お前が言ったではないか。私に何をされてもいいと」

サガの手の中に異次元が生み出され、広がっていく。


――ずっと二人を守っていってね


双子の弟と、生まれたばかりの妹を守れと母が言ったのを覚えている。
しかし双子座の聖闘士に選ばれ聖域に来た時に、その約束の一つは叶えられないと知った。

「カノンこそが、私に残された全てだ」

カノンが母や妹の事など何も覚えていなくてもいい。お互いが、世界の全てであればいい。
決意を秘めたその言葉が、手の中の異次元をより一層、深く、強大なものへと変えていく。

「在るべき場所へ還れ。アナザーディメンション!」

「兄さん、助けて! ……!!」

為す術もなく異次元に飲み込まれたリュカイニオンは、こうして跡形もなく消滅した。


「あの姿、あの声の者を殺すのは……やはり気分の良いものではないな」

静けさを取り戻した海に向かってサガはそう呟くと、振り返ってカノンの存在を確認する。カノンは静かに横たわっていた。

「カノン……」

近付くと、穏やかな呼吸をしている事が分かった。看病を託したテティスはいつの間にか姿を消していた。
サガがカノンを抱える為に首に腕を回すと、その衝撃でカノンは目を覚ました。

「……う、サガ……? ここは」

カノンを胸に抱いたまま近い距離でその碧い瞳を見て、サガの表情が歪んだ。

「お前を……また失うところだった。無事で良かった」

サガの苦しげな顔を見て、カノンは思わずサガの頬に手を伸ばした。
しかし、何かを思い出したカノンはその手をぎゅっと握り、下ろした。

「別に……その方が良かっただろ」

カノンはそう言って顔を背ける。カノンの頭には、リュカイニオンを抱くサガの姿がまだ残っていた。

「リュカイニオンは倒した。初めからそうすべきだったのだろうが、お前を狙う目的が知りたかったのでな……少し様子を見ていた。あの時お前が来なければ、幻朧魔皇拳で全て吐かせる事が出来ていたのだが……すまなかったな、こんな事になって」

「何だよそれ…っ、じゃあ何故言ってくれなかったんだ」

「リュカイニオンが現れた頃には、既にお前は奴の呪いに掛けられていたのだ。私の話を素直に聞ける状態ではなかっただろう」

カノンは何も言い返せなかった。思えば妹が現れてからずっと、得体の知れない不安や疑念に囚われていた。

「あれは……本当に俺達の妹なのか?」

サガはゆっくりと首を横に振った。

「日中は姿がなかった事から、闇の力を与えられた哀れな存在だったのだろうな」

「そう…だな。俺達に妹がいた記憶などないからな」

カノンのその言葉にサガは僅かな胸の苦しみを感じる。
記憶の中の母と妹は、今でもきっと何処かで幸せに暮らしていると思うより他になかった。

「お前は私の事だけ見ていれば良い。私の他に、肉親が必要か?」

サガは静かに問う。その言葉に少し考え込んだカノンは、下を向いたまま首を横に振った。

「サガは……?」

「お前と同じ気持ちだ……」

お互いが、世界の全てであればいい。
暫くの間、二人の間に沈黙が流れた。サガはカノンを見ているが、カノンはまだサガの顔を見る事が出来なかった。

「さっき、夢を見ていたんだ。昔の……」

カノンはその沈黙に耐えかねたようにゆっくりと話し出した。



気を失っている間、カノンが見ていた夢。それは、聖闘士になる前の二人が双児宮に住んでいた頃。
訓練の為、サガは毎日夜遅くまで帰らなかった。カノンは双児宮でサガの帰りを待っていた。
独りで過ごす時間を持て余し、カノンは次第にイライラした気持ちを募らせていった。
そして、そんな気持ちをぶつける対象もおらず、庭に時折現れる生き物を発見しては殺すようになっていた。

この日もカノンは、庭に現れた一匹の蛇を何の躊躇いもなく真っ二つにすると、その蛇がまだ動いている様子を見ていた。
そこにやってきたサガは、カノンとその蛇を見て顔を顰めた。

「カノン、生き物を無闇に殺してはいけない……」

そう言ってサガは息絶えようとする蛇をそっと手に持った。小さく舌打ちしたカノンは双児宮の中へ入っていく。

「カノン……」

サガは切ない表情でカノンの背を見送り、手の中で動かなくなった蛇を見つめた。

「すまないな……」

蛇の死骸に向け一言そう言うと、サガは土を掘り、そこに蛇を埋める。双児宮の庭には、その頃幾多の小さな墓が出来ていた。



「……昔の事だ」

夢の内容を聞いたサガは答えた。
その殺伐とした過去は、聖域で過ごした記憶のほんの一片だった。カノンが力を失った事で、そんな些細なものにつけいる隙を与えたのだった。
しかし、カノンをここまで危険な状態にさせてしまったのは自分の責任だ。

「本当に私はいつまでも……無力で最低な兄だな」

サガがそう自嘲すると、カノンは下を向いたまま答えた。

「そんな事はない! 今だって俺を……助けてくれたじゃないか」

責められても当然だと思っていたサガは少し驚きながら、カノンの頭を撫でた。

「カノン……呪いが解けた今も、私といるのが嫌だと思っているか……?」

その質問にカノンは口篭った。落としたままの視線が何かを探すように動く。
あの時だって、心からサガといるのが嫌だと思ったわけではなかった。

「……笑えないんだ」

やがてカノンがぽつりと呟いた。

「あんな風に、笑えないんだ。あの妹は、かわいかっただろう?」

その言葉を聞いて、サガの表情が少し緩んだ。

「ふふ、まだ拗ねているのか? カノン。いいかげん素直になったらどうだ」

「……っ」

「私の目を見ろ、カノン」

「い……嫌だ」

「何故」

「リュカイニオンに……してた」

「何を」

「何を……って」

カノンは赤くなって俯いた。サガはそんなカノンの耳元で、そっと囁いた。

「同じ事、して欲しいのか……?」

「っそ、そんな訳ないだろ! ほら、やっぱりしてたんじゃないか」

カノンはそう言うと、サガの胸から出ようともがいた。しかし、サガが纏う黄金に光り輝く聖衣は、カノンがいくら叩いてもびくともしない。
サガは幼い子供をあやすようにカノンを押し倒すと、身動きが取れないように両手を押さえた。
ずっと見る事を拒んだサガの姿が、カノンの視界いっぱいに広がる。

「……サガ…っ!」

「お前がいつまでも私の事を信じないから少し意地悪をしたくなった。素直になるまで、許さないからな……私の目を見たまま、言ってみろ……どうされたい?」

サガの視線に、声に、制御出来ない程の熱が体中を駆け巡る。カノンは既にサガから目を逸らす事は出来なかった。

「…っ、はぁっ、サガ……」

カノンの碧い瞳が揺らぎ、息が徐々に乱れていく。サガはそんなカノンを見つめながら、カノンの唇にゆっくりと己のそれを近付けた。
唇が触れるか触れないかの距離で止め、カノンの熱い吐息を感じた。

「素直でないのは、口だけだな……」

カノンの唇には触れない程度に、しかし少し動けばすぐに触れてしまう近い距離でサガはそう囁く。
余裕を悉く奪われたカノンの瞳は、いつしかサガを求めるものへと変わっていた。

「サガは、俺だけの……兄さんだ」

「ああ、その通りだ」

「……もう離れたく、ないんだ」

「ああ、そうだな……」

「サガ……」

「他に言う事は?」

「……っ」

今にも触れそうな距離にあるサガの唇が、欲しくて堪らない。
カノンの頭の中は、自らの欲望を満たす事しか考えられなくなっていた。

「……して、キスして、兄さん……」

無意識に口から出たその言葉と同時に、サガは強くカノンに口付けた。
ずっと求め続けたものを与えられた悦びに、カノンの心と体が打ち震える。
カノンはもう何も考えられず、ただ欲しかったものをひたすら貪り、甘い声を漏らした。

気の遠くなる程に長いキスの中、カノンは遠くで魚が跳ねるような水音を心地良く聞いた。



翌朝サガが目を覚ますと、カノンはサガの胸の中で元通りの男の姿に戻っていた。
すっかり力を取り戻したカノンは午後には海界へ戻る事に決めた。
今までのサガであれば、海に戻るカノンを見ると過去への後悔と不安を拭えなかったが、この日サガは初めて今までとは違う気持ちでカノンを送り出す事が出来たのだった。

「じゃあ、サガ、行って来ます」

「ああ。一人で大丈夫か?」

「馬鹿、もう女じゃないんだぜ。力はお前と互角だ」

「っふ、そうだったな。少々残念でもあるが」

「何か言ったか?」

「いや、何でもない……またな、カノン」

サガに見送られながら、カノンは振り返る事なく双児宮を後にした。


――必ず、待っていてくれる
――必ず、戻ってきてくれる


今までに味わった事のない信頼という感情。それがこんなにも、別々の道を歩む足を強くさせるとは知らなかった。
二人は今、それぞれの場所で、とてもよく似た穏やかな表情で微笑んでいた。



お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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◆サガカノ小説サイトです。
◆リンクフリーです。
◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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