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2. 海の主

真っ暗だ……

カノン、カノン、どこだ……
私の手を取れ、お願いだから


双児宮でアイオロスが看病する間、サガはうなされながらもずっとカノンの名を呼んでいた。

(カノンに何かあったのか……)

アイオロスは何らかの異変を確信していた。

(もともと一つの遺伝子だからな……)

ベッドの脇に座り、ぎゅっとサガの手を握った。血の絆は、アイオロスに立ち入る隙を与えない。
見守るだけの時間が無駄に流れていった。

「……今も昔も、やれる事をやるだけ、か」

切ない表情でそう呟いたアイオロスは、静かにサガを小宇宙で包んだ。
サガの苦しみが、少しでも和らぐようにと。



その頃、サガは夢を見ていた。

サガの目の前に広がっていたのは、見た事もない程透き通ったアクアマリンの世界だった。
最初に感じたのは、嫌悪だった。

「これは……」

サガはこの存在を知っている。
何もかも瓜二つの存在として生を受けた自分とカノンの、たった一つだけ異質な部分。
海の小宇宙。
十三年前、カノンを攫った大いなる存在。

「海皇か」

サガの表情は硬い。何かの間違いだと思いたかったからだ。
神であるはずの海皇の小宇宙が、消え入りそうな程小さい事実を。
しかし、残酷にもサガの予想は外れはしなかった。

「サガよ。カノンの双子の兄よ……」

海皇の小宇宙がサガに語り掛ける。

「海界に異変が起きた。カノン以外の海闘士は皆封印された」

サガは目を見開いた。

「あやつの狙いはこのポセイドンの力を弱め、海界を支配する事。先に海闘士全員を封印した後で私に取引を仕掛けた。
海闘士は一人残らず奴の手に堕ちたが、カノンはその時偶然冥界にいて封印を免れた」

「ではカノンは今どこに」

嫌な予感がサガの心臓の鼓動を速くする。

「カノンの肉体は私の力で創られたもの。しかし私も海闘士の命を盾に取られ、ほぼ全ての力を失った状態だ。
カノンの肉体は消失し、魂は行き場を失くし彷徨っている」

「そんな……どうにかならないのか!」

サガは必死になってポセイドンに叫んだ。

「このままではカノンの魂の影響でお前自身も危険だ。一つの肉体に二つの魂が存在する事はどちらの魂も耐えられないだろう。
私が最後に残された力で出来る事は僅かになってしまった。一つはサガ、お前とカノンの魂を一つにする事。
もう一つは、肉体を作り直してカノンの魂をそこに戻す事。しかしこれは、力及ばず肉体が不十分になる可能性が高い」

サガはこの言葉を黙って聞いていた。
魂を一つに。それは、サガとカノンがあるべき一つの遺伝子に戻るという事。
永遠に離れる事のない、交わり。甘い、甘い感覚。

サガはその感覚を想像し、そっと瞳を閉じた。

聖戦の時、肉体を失った二人の魂が一つになった瞬間があった。
あの感覚は、二人にしか分からないだろう。この世にはあれ以上に満たされる感覚はきっとないのだと思う。
もともと一つだったものが長い間分かたれ、また一つに溶け合うあの感覚は、それを表す言葉さえ存在しない。

あの一瞬をもう一度取り戻せるのならば……

サガはゆっくりと顔を上げた。

「魂を一つに……」

そう言いかけて、ふと脳裏にカノンの微笑みが過った。
長い曲折を経て漸く真っ直ぐサガに向けられるようになったカノンの笑顔。
これから先ずっと、何に換えても守っていきたいと思っていた。そう誓った。


兄として……


サガの瞳が揺らいだ。
今、自分は一瞬でもカノンの消滅を望んだのではないか。
一つになってしまえば、その笑顔を、カノンを兄として守る事は二度とない。


絶対に、失いたくない


サガは真っ直ぐ前を見て、こう答えた。

「どんなカノンでも構わない。ポセイドン、弟をもう一度この世界に」

「分かった……やってみよう。カノンに伝えてくれ。この海を救えるのはお前だけだと」

サガはゆっくりと頷いた。
その瞬間アクアマリンの世界は強く光り輝き、サガの意識も次第に白くなっていった。



「う……」

双児宮のベッドで、サガは目を覚ました。ゆっくりと起き上がると、アイオロスの小宇宙の残りを感じる事が出来た。

「ロス……」

その温かい小宇宙を掌で感じながら、ふらりと薄寒いリビングへと出た。火を灯すと、時計は既に深夜を指しているのが見えた。

水を飲もうと再び歩き出したサガの体がびくりと震えた。
誰かが床に倒れている。

サガはそれを見て、一瞬悲痛な表情を浮かべた。

「なんと……いう事だ……」

サガは駆け寄り、倒れているその上半身をそっと抱き上げた。

「カノン……」

気を失っている様子のカノンはとても軽く、一回り小さくなった体はサガの胸にすっぽりと収まった。
サガは壊れものを扱う様にそっと両腕で抱え、カノンを寝室へと運んで行った。


華奢でしなやかな体躯
透き通る様な白い肌
細い肩
括れた腰
長い睫毛
紅みを帯びた唇
そして……カノンに絶対にあるはずのない胸の膨らみ


髪の色や風貌は面影を残し、一目見ただけでカノンだと分かる。
しかしサガの腕の中で眠るカノンの体は、間違いなく女性のそれだった。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

初めての方へ

◆サガカノ小説サイトです。
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◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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