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3. 鼓動

カノンが目を開くと、何故か双児宮のベッドに横たわっていた。
ゆっくりと身を起こすと、手を額に当て前髪を後ろに掻き流した。

さらりと流れる髪にほんの少しだけ違和感を覚えたが、さして気にも留めず溜息を一つ吐いた。
カノンは自分の心が何故かとても悲しい気持ちに満ちているのに気が付き、理由を思い出そうとした。

『パンドラ様は……』
『いい加減にしないか……!』

ラダマンティスの声が脳裏にこだまする。彼と寝室にいた女性の事で揉め、子供じみた行動をしてしまったのだった。

「あ……」

そう言えば、とカノンは思う。あの後、自分は全身が消えたのではなかったか、と。
夢だったのだと思いたくて、体に掛けられていた薄い毛布を払ったその時。

扉が静かに開いた。入ってきたのは双子の兄、サガであった。

「……目が覚めたか」

「サガ、俺は何故」

カノンはそこまで言って驚いて口に手を当てた。
何が起きたのか分からなかった。口から出た声色は、自分のものより遥かに高いトーンだった。

「え……? 声が……」

そう言いながら、自分の喉が異常ではないかを必死で触って確認する。それを見ていたサガの表情が歪んだ。

「カノン……本当に、お前はカノンなのか」

サガの質問の意味も理解出来ず、ただその問いには力強く頷いた。

「そうだ。何言ってるんだ? サガ」

そう言って慌ててベッドから降り立つと、サガの顔が見えなくなった。
目の前に、サガの胸がある。目を見開いたまま、信じられないというような表情で、カノンはゆっくりと上を見上げた。

同じ身長のはずなのに、サガが自分を見下ろしている。
サガの背が伸びたのか、と一瞬思わずにいられなかったが、これまで一度も身長が違う時期はなかった二人だった。

「……よく聞いてくれ、カノン。お前は、今までのお前ではなくなったのだよ」

サガはゆっくりと、落ち着いた声で話し始めた。



海界の異変、自分の身に起こった事を一通りサガから聞いたカノンの顔は蒼白だった。

「そ、そんな……」

一言呟くと、ふらふらと浴室へ行った。
そこに置いてある姿見に自分を映すと、一つ一つ納得させるように体に触れていった。

「……っ」

カノンの手が、胸で止まる。気味の悪い感触に、自分が女になったという事実を納得せざるを得なかった。
そう思った途端、その場所から逃げ出したくなる衝動に駆られ、カノンはサガの元へ早足で戻って行った。

「サガ!」

リビングで立ち尽くすサガの目の前に立ち、カノンは沸き上がる感情をぶつけた。

「なんなんだよ、これ! こんな風になるなら死んだ方がマシだ! 今すぐ殺してくれ……っ」

そう言いながらも、自分の口から出る甲高い声に戦慄を覚える。カノンは泣きたくなるような気持ちを抑えてサガに詰め寄った。
サガは悲しげな表情で瞳を伏せ、カノンの激昂に耐えている様に見えた。また、その事が余計にカノンを焦らせた。

「お前が俺を殺さなければ、一人で死ぬまでだ……!」

サガを睨みながらそう吐き捨てるとカノンは玄関へと駆け出した。
はっとしたサガは、走り出したカノンにいとも容易く追い付き、肩を掴んだ。

「カノン、行くな……!」

カノンはサガの声が耳に入らない程興奮していたが、どれだけ足掻いてもサガの手を振り払う事は叶わなかった。

「離せよっ!」

「カノン……!」

サガはカノンの両肩を掴み、己の胸に抱き締めた。
突然抱き締められたカノンはしばらく感情の昂るままに暴れたが、その腕の強さにやがて諦めた様に大人しくなった。

「明日アテナにお会いしよう。カノン、私も行くから……」

胸の中で、なだめる様に囁くサガの声を聞いたカノンは、ただ無言でこくりと頷いた。
二人はそのままずっと動かなかった。
サガの心臓がちょうどカノンの耳に重なる。
規則正しく刻まれるサガの鼓動を聴くうちに、カノンは酷く安心した気持ちになり、ゆっくりと瞳を閉じた。



朝――

カノンが目を覚ますと、そこは再びサガのベッドだった。
サガはカノンを腕の中に抱き寄せたまま、静かに眠っていた。

カノンはサガに抱き締められたまま眠ってしまった事に気が付き、顔が赤くなった。
そんなカノンの動揺とは対照的に、目の前にあるサガの胸は穏やかに上下している。

カノンはサガの顔を見た。

この顔と瓜二つだった自分。
カノンは失くした肉体を惜しむ様にサガの頬にそっと触れた。

その感触で、サガの瞳がゆっくりと開いた。

「あ……」

サガとカノンの瞳が合わさった。
しかしサガはその視線を逸らしカノンから離れると、ベッドから降りておはよう、と言った。

「お、おはよう……」

カノンは昨日の事をサガに謝らなければいけないと思ったが、どうしてもその言葉を口には出来なかった。

「準備が済んだら早速アテナ神殿へ出掛けよう。カノン、このフードを被って行きなさい」

そう言ってサガがカノンに渡したのは、顔の殆どが隠れる帽子のついた大きなマントだった。
サガの服であるからには本来のカノンにもぴったりだったはずだが、今のカノンにとっては引き摺って歩かなければいけないほど大きかった。

「その姿、誰にも見られぬ方が良いだろう」

サガは残酷な程に冷静な口調でそう言って寝室を出て行った。
カノンはその言葉に少し傷付いたが、だからと言ってこのままの姿で外へ出る訳にはいかず、仕方なく言われた通りにした。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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