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7. 迷彩

「サガ、ラダマンティスは何の用事だったんだい?」

サガが戻ってくると、アイオロスは椅子から立ち上がって聞いた。

「いや、何でもない……」

サガはそう答えてアイオロスの隣に座ろうとしたが、椅子に掛けた手をアイオロスが掴んだ。
アイオロスの瞳が強く、サガを見つめる。

「サガ」

「ロス……」

アイオロスの強い視線に、サガは瞳を逸らせない。
この男には何を隠しても無駄なのかもしれない、とサガはその時思った。

「今日の仕事は俺一人でも出来るから、サガはもう休め」

「そんな訳にはいかぬ」

「顔色が悪い。最近あまり寝てないのだろう、気にするな」

「……」

アイオロスは言い出したらその決意を曲げる事はない。それを知っているサガは不本意ながらその気遣いに甘える事にした。

「ありがとう、ロス……」

サガはそっと部屋を出ていった。



一旦双児宮へ戻ったサガだったが、カノンがいない事が分かるとじっとしていられなくなった。
サガの足が自然と訓練場へと向かっていく。ただ少し様子を見るだけだ……と自分に言い聞かせた。

広場には大勢の候補生達がそれぞれの訓練を行っていたが、カノンの碧く美しい髪はすぐに見付ける事が出来た。
双子座の黄金聖闘士である自分が見付かれば皆の訓練の邪魔になってしまう。サガはそう思い、木陰に身を寄せた。

(随分無茶をしているな……)

サガはそう思い眉を顰める。昨日の夜に見た時より既に多くの傷を作っていた。


「おい、誰か俺と手合わせする奴いないか!」

体中に傷のある、太った男が大声で叫んだ。見るからに喧嘩早い、獰猛な顔つきだ。
訓練をしていた周囲の候補生達がその声に気が付き次々とその場から逃げるように去って行く。
カノンと組手をしていた細身の男が顔色を変えた。

「あいつと昨日手合わせした奴、あちこち骨が折れて病院行きだぜ」

そう言い残すと怯えたように逃げて行った。

「お、おい……まだ途中……」

カノンは走り去って行った相手を追うのは止め、修行を中断させた声の主の方へ向き直った。
今や広場の中心には男とカノンのみになっていた。

「何だ? 弱そうな女だな。こんな奴しかいないのか」

男はカノンを見下しそう言った。
カノンは仮面の下からその薄汚い男を見た。こんな雑兵など以前の自分ならば闘気のみで簡単に殺せそうだ。

「フン……血に飢えた下衆め。吠え面かくなよ」

そう言ってカノンは闘う体勢を取った。


こんな奴くらい倒せないと……


カノンはラダマンティスの姿を見たせいか、今の状態に焦りを感じていた。

「言ったな、新入り。俺の事を知らんようだな。かわいそうだが二度とそんな口が叩けない様にしてやろう」

男はこの上なく愉快そうにそう言うと、下卑た笑みを浮かべた。


カノンの拳筋は見事だが、全く力がついていっていなかった。
どれだけ殴っても相手の分厚い肉に阻まれダメージを与える事が出来ない。
殴れば殴るほど、自らの拳が軋んで壊れていった。
防御に於いては構えこそ完璧なものの、相手から受けた攻撃に耐える事が出来ずその体勢のままふっとばされる。
男はカノンの軽い攻撃を避ける事無く全て受けながらもカノンに手傷を負わせていった。

「……っ!」

何回目なのだろうか、カノンが床に叩きつけられた時、頭部から出血し仮面に伝った。
それでもカノンは立ち上がり、ふらつきながらも構えを取った。

「しぶとい女だな、面白い」

仮面から滴る血に興奮を煽られ、男はにやりと笑う。
懐に飛び込んできたカノンの胸倉を掴むと、力任せにねじ伏せ馬乗りになった。

「くっ……」

仮面の下から苦しそうな声が漏れた。
男はゆっくりとカノンの顔面を狙う様に右の拳を上げた。

(顔を殴られたら……仮面が……)

カノンは全力でもがいた。
その時。

「そこまでだ」

低く、強い声が広場に響いた。

カノンの上に乗ったままの男は舌打ちをし、声がした方を振り返った。
しかし、その姿を見るや否や男はカノンから飛び降りた。

「サ、サガ様……!?」

「勝負はついた。必要以上に相手を傷付けるな」

静かな言葉とは裏腹に、サガの全身から感じられる闘気が男を襲う。

「ひぃっ!」

その刺す様な殺気に本能が恐怖を覚えずにはいられない。男は全身に鳥肌を立たせ、何度も躓きながら走り去って行った。
候補生の身分では黄金聖闘士を間近で見る機会など無いに等しい上に、闘気を直接感じてしまったらひとたまりもない。

広場の隅で隠れる様に眺めていた候補生達が徐々に戻り、サガの存在を気にしつつも訓練を再開していく。
サガは倒れたまま息を切らしているカノンを複雑な表情で見下ろした。

「カノン、立てるか」

サガはカノンに手を差し出した。
しかし、カノンはサガの手を思い切り払いのけた。
カノンの手は真っ赤に腫れ上がっており、サガの手に一瞬掠っただけで更に痛みが増した。

「邪魔をするな! サガ……!」

その言葉にサガは目を瞠る。

「お前の負けだ、カノン」

サガは強い口調ではっきりとそう告げた。

「もうこんな事は……」

サガがそう言いかけた時。

「うるさい! 最強の黄金聖闘士様がわざわざこんな場所まで出て来て弱い奴を笑いに来たのか! 帰れよ……っ」

カノンは悲痛な声でそう叫んだ。サガの表情が凍りついた。

「お前に俺の気持ちなんて分からない! サガなんて大嫌いだ……」

涙が混じり、最後は消え入りそうなか細い声だった。その声を聞いたサガは、暫く沈黙した。
そして静かにすまなかった、とだけ言うと双児宮へと戻って行った。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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