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15. 対峙

15-1:サガとオルクス

「あれか」

結界の中に足を踏み入れたサガは、視線の先に巨大な古代神を認める。
しかし低く呻きながら地を這うその黒い姿に、嘗ての神の面影はない。

ただ、この空間に充満する死のエネルギーはラダマンティスが技を放った時とは比べ物にならない程に濃い。
自分が再び死人に戻った様な錯覚さえ覚える。
聖域に敵として乗り込み、名目とはいえアテナの命を狙うという鎖に縛られた一日。
あの日の苦しみがまだ続いているような、そしてそれが永遠に続く様な、後悔にも似た痛みが心の中に次々と生まれてくる。

サガは背後をちらりと見遣る。

ラダマンティスは追っては来ないようだ。大方力尽きたのだろう。
しかし、それは幸いだったとサガは思った。
同属の力はここから先役に立つと思えないし、そして何より、自分が万一ここで力尽きてもまだカノンを守る人間がいる。


この遥かに大きな神を相手に戦えるのか


そう思いながらサガはおもむろに拳を握ると、攻撃の小宇宙を高める。
そこでやっとサガの存在を認めたオルクスは、ゆっくりと直立し、サガを見下ろした。


――海はエトルリアの民のものである
今再び我が手に神の力を取り戻し、かの地に光を――


オルクスのその声はサガの遥か上方から響き渡った。
サガは眉を顰める。
紀元前の国家の神が時の経過と共に風化したなれの果て。
死の神に凋落した現在も、この巨人は嘗て自分を神と崇め、祈った民を想っている。

「お前はもう神にはなれない。時は流れ、お前を信仰した民ももういない。ポセイドンの力を解放しろ!」

サガはこの哀れな神を説得する。神になれない、そんな事を言うのはまるで過去の自分の罪を抉るようだ。
しかしサガの声はオルクスには届かなかった。
危険分子と認めたサガを潰す為、オルクスは巨大な体を地面に投げ出した。
一瞬にして視界が更に暗くなったサガだったが、地面を蹴り間一髪で避ける。

「無駄か……!」

サガも覚悟を決める。やはり戦うしかない、と。


暫く、サガは攻撃を避けながら相手の力・癖を観察する。そして、封印された海皇の力の手掛かりを探した。
オルクスはサガを執拗に追い掛けるが、その大きさ故に動きの鈍い神は光速で移動するサガを捉える事がなかなかできずにいた。

何回目かの攻撃を避けた時に、オルクスの脇をすり抜けたサガはその巨大な全身を仰ぎ見た。
全身から湧き出る黒いエネルギーが、ほんの少しだけ緩やかなその部分。

心臓。

まさか、とサガは思う。死の神の弱点が心臓とは思えなかったが、明らかにそこに何かが在る、それを感じる。
サガの口角が無意識に上がる。

「カノン――」

黒い風を切りながら、目の前にいない弟の名が思わずサガの口から漏れた。
この古代神と自分が戦う事になったのは運命だったのかもしれない。
オルクスの心臓から感じるその存在はごく微弱であり、それに拘り続けた自分でなければ絶対に見付けられなかったはずだ。

何もかも瓜二つの存在として生を受けた自分とカノンの、たった一つだけ異質な部分。
嫌悪の余り、いつもそれを感じて来た。どうにかして取り除けないものかと。
弟を手放したあの日の自分の過ちと共に、消えない証として今も残る海の小宇宙。


あれこそが、海皇の力が封印されている場所


サガは大きく跳躍した。オルクスの目線とほぼ同じ高さまで飛んだ事で、簡単に存在を捉えられた。
結界内で技を放てばどうなるのか分からない。更に心臓を狙って技を放てばサガ自身が無防備になり危険極まりない事も理解出来ていた。

(それでもカノン、お前がこれで元に戻るのなら)

望んだ笑顔が脳裏に浮かぶ。
これまで、どれだけ苦しめただろう、泣かせただろう。

(許してくれるか、この兄を……)

サガは小宇宙を爆発させた。


「ギャラクシアンエクシプロージョン!」


幾多の閃光がオルクスの胸に突き刺さり、爆発を起こした。仄暗いその世界には眩しすぎる輝きだった。
それと同時にサガは、オルクスが放った拳により地面に叩きつけられた。

「ぐっ……!」

全身を砕かれたような衝撃で呼吸すら断絶される。数瞬して、乾いた砂の感覚で地面に横たわっているのだと気付いた。
力を振り絞り身を起こせば、血が滴り乾いた砂利に次々と吸われていく。

オルクスも光の余韻の中、衝撃で怯んでいたが、心臓を狙って放った技はそれほど効いていないように見えた。
サガがまだ生きている事に気が付いたオルクスは次の攻撃をする為に両拳を振り上げ、地面のサガを狙う。

間一髪、サガは左に転がる事で不器用にかわし、オルクスの両拳は虚しく地面を割る。
痛みで思う様に体が動かない。
しかし苦戦は想定内、神と名の付くものとの戦いなのだとサガはもう一度体勢を立て直す。

オルクスの胸部を再び仰ぎ見ると、黒い肌には亀裂が走り、血の代わりに僅かに流れ出す小宇宙は確かに海皇のものだ。
サガは手応えを感じる。

「あと一撃……!」

次々と繰り出されるオルクスの攻撃をやっと動く体でかわしながら機会を狙う。
今一度、技を放つ事が出来ればあの心臓はきっと破れる。

同じ技を再度放つのは、一度目より遥かに危険だ。見切られている可能性がある。
しかしサガは最後の攻撃を当てる事だけを考えた。

サガの集中が全てオルクスの動きに注がれる。
極限まで研ぎ澄ました感覚で、オルクスの動きがまるでサガにとってはコマ送りのように鮮明になる。
今、サガの世界にはオルクスのみが在った。

その世界を終わらせたきっかけは、闇に響いた微かな声。

オルクスはそれにより、一瞬だけサガから意識を外した。
サガはその千載一遇の好機を逃さず、攻撃の為に出されたオルクスの右腕に飛び乗り、二度目のギャラクシアンエクスプロージョンを放った。

再び光の爆発が起き、オルクスの左手で打ち払われたサガはそのまま遥か後方へ吹き飛び、結界の壁に打ちつけられ落ちていった。


15-2:カノンとサガ

死に包まれた世界の中、遠くで輝く黄金は、自分を常に守り導いて来た光。
黒い巨体が暴れる度に鳴る地響きの中、その黄金はひらひらと宙を舞う蝶の様に見えた。

「サガ!」

カノンは叫ぶ。様々な想いと祈りを、たった二文字の兄の名に換えて。
しかし、その声に反応したのは黒い巨人だった。自分に向けられたその気配にカノンの全身が生命の警鐘を鳴らした。
カノンは唇を噛む。この体では敵のたった一度の攻撃で命が終わるだろう。


この僅かな時間でもいい、サガを危険から守れるなら


考えるより早くそう思ったカノンは一歩踏み出し、巨人にその小さな存在を精一杯示す為に両手を広げる。
その瞬間、黄金の軌跡が黒い巨人の腕に乗ったと思うと、まるで爆発したかのように強く弾けた。
目が開けられない程の明るさで照らされ、巨人の咆哮と轟音でカノンは思わず視覚と聴覚を塞いだ。

熱い風が止み、ゆっくりと目を開ける。
カノンの瞳に映ったのは、満身創痍で倒れたサガだった。

「……サガ!!」

口から出た声は最早絶叫に近かった。姿すらはっきりしない距離から一瞬でここまで吹き飛ばされたのだ。
カノンはサガに駆け寄り、抱き上げた。

「こんなに、ボロボロになって……」

カノンは、サガがこれ程までに傷付いているのを見るのは聖戦以来だった。
あの時は、アテナの為。今は、自分のせい。瞼の裏が痛み、傷だらけのサガの顔がぼやけた。

カノンの声に気が付いたサガは驚いて目を見開くと、すぐにオルクスの所在を確認する。
技を喰らったオルクスは心臓を押さえもがき苦しんでいた。

「馬鹿な……! 何故ここに!」

サガは強い瞳でカノンを見た。仮面のせいでカノンの表情から感情を読む事が出来ない。

「それはこっちのセリフだ! どうしてこんな危険な事を……!!」

カノンの声は震えていた。

お互いに抱く思いを短く語れるはずもない。二人はそれ以上の言葉を見付けられず押し黙った。
オルクスが動く。それに気が付いたサガはもう時間は無いと感じ、カノンから目を逸らすと立ち上がった。

背を向けられたカノンも、サガの覚悟に気付く。

「サガ! 駄目だ!!」

まだ嫌いだと言ってしまった事を謝れていない。本当の気持ちを伝えてもいない。
いくらそう思っても、こんな時ですら背を向けて立つサガに行かないで欲しいと伝えられないのは、子供の頃から身に沁み付いた癖だ。

しかし、子供の頃と決定的に違うのは、戻らない覚悟をサガから感じる事だった。

「兄さん……!」

口から出せた言葉は、たったそれだけだった。
サガはその哀願の響きを帯びた声を確かに聞いたが、振り返る事なく再び戦いへと赴いた。

お知らせ(3/10更新)

◆自家通販は現在行っておりません。
◆次回のイベント参加予定は2019年2月10日(日)開催予定の「GALAXYμ」(大阪)です。
◆2013年に寄稿した『雨のおと、魂のこえ』という短編を全文公開しました。オフラインから見ることができます。

初めての方へ

◆サガカノ小説サイトです。
◆リンクフリーです。
◆R18部分は簡単なパス制です。

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書いている人

名前:みなみ椿
サークル名:Spiral
地域:東海圏

・ライブラA型
・カプ固定(サガカノ・LCアスデフ)
・字以外は左利き

同人活動は2010年06月から開始。
オフ活動は2012年11月から開始。

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